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血管由来の悪性腫瘍『血管肉腫』とは?

はじめに

今回は『血管肉腫』という悪性腫瘍について徹底的に解説していきます。
血管肉腫は犬で発生が多い腫瘍で、脾臓や肝臓、心臓、皮膚と全身至る所で発生する腫瘍です。

発生率とリスク因子

血管肉腫は悪性腫瘍であり、血管内皮細胞が腫瘍化したものです。

血管肉腫は犬で認められることが多く、犬の腫瘍全体の2%を占めています。
また、脾臓に発生することが多く、犬の脾臓腫瘍の45~51%が血管肉腫であるという報告があります。
反対に、猫ではあまり一般的ではない腫瘍です。

血管肉腫は中年齢~高齢の犬で発生することが多く、3歳以下での発生は稀です。
どの犬種でも起こり得ますが、大型犬に発生が多く、好発犬種は以下のようなものが挙げられます。


好発犬種
  • ジャーマン・シェパード
  • ゴールデン・レトリバー
  • ラブラドール・レトリバー

皮膚の血管肉腫はお腹周りの皮膚や被毛の薄い部位で発生することが多く、
色素の薄い犬種では色素が濃く毛が長い犬種と比較し皮膚の血管肉腫が発生しやすいという報告もあります。

Dogs with short hair coats and lightly pigmented skin also had more hemangiomas and hemangiosarcomas of ventral glabrous skin (65%) than did dogs with variable length hair coats and pigmentation (22%).

A retrospective clinicopathologic study of 212 dogs with cutaneous hemangiomas and hemangiosarcomas

以前までは血管内皮細胞が悪性転化することで発生するものと考えられていましたが、
最近のデータでは血管肉腫は骨髄前駆細胞の成熟エラーが起こり、末梢血管で腫瘍を形成するのではないかと言われています。

血管肉腫と遺伝子異常

さらに遺伝子学の分野でも研究が進んでいて、人やマウスの血管肉腫ではp53Rasのような腫瘍抑制遺伝子の変異が発生に関与していることが示唆されています。
しかし、犬の血管肉腫においては研究がまだ不十分です。

犬の血管肉腫ではPTEN(ピーテン)の不活性化が50%以上で起きていることが分かっています。PTENの異常があるとp27の発現が低下し、リン酸化Aktが蓄積する可能性があります。
これらの他にも腫瘍形成に関わる遺伝子異常は多数確認されています。

Nevertheless, the results indicate that alterations of PTEN mRNA were present in six of 10 HSA samples using this technique. 
(中略)
We predicted that the anomalies of PTEN seen in the canine HSA lines might result in reduced levels of p27 and accumulation of constitutively phosphorylated Akt (p-Akt).

Mutations of Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10 in Canine Hemangiosarcoma

病因と挙動

病因

犬で血管肉腫が最も一般的にできる部位は脾臓です。
その他に発生する部位としては心臓、皮膚、皮下組織、肝臓が挙げられます。

脾臓の血管肉腫

脾臓に発生する悪性腫瘍のうち50~74%は血管肉腫であり、
非外傷性の腹腔内出血を認める犬の63~70%は血管肉腫であると言われています。

肉眼と超音波検査

脾臓に発生する腫瘤は肉眼的にも超音波検査でも似たような見え方をするため、これらの所見でリンパ腫や未分化肉腫、非腫瘍性疾患(結節性過形成、髄外造血、血腫など)の鑑別を行うことはできません。

大きさと悪性度

脾臓に発生した腫瘤の大きさや重量に関して調べた研究では興味深いことに大きい腫瘤や重たい腫瘤の方が、良性病変であったという報告があります。
原因についてははっきりと分かっていませんが、
おそらく悪性腫瘍であれば、大きくなる前に破裂したり、調子を崩すことが多いはずなので、腫瘤が大きく成長できたということはそれが良性病変だったからという説が一つ考えられます。

Dogs with benign splenic masses had a significantly higher mean mass-to-splenic volume ratio and higher mean splenic weight as a percentage of body weight than did dogs with hemangiosarcoma.

Mass-to-splenic volume ratio and splenic weight as a percentage of body weight in dogs with malignant and benign splenic masses: 65 cases (2007-2008)

心臓の血管肉腫

心臓は血管肉腫が2番目に発生しやすい場所で心臓腫瘍の中では最も一般的なものとなります。
右心房や右心耳から発生することが多いですが、その他の部位からでも発生することはあります。

少し前までは脾臓と心臓の血管肉腫が同時に発生しやすいと言われていましたが、ある研究ではそこまで好発するわけではなく、同時発生の確率は大体8.3%ぐらいと報告されています。

生物学的挙動

血管肉腫の生物学的挙動は発生した場所によって変わってきます。
例えば、内臓器に発生する血管肉腫であれば、強い局所浸潤性と転移性を示しますが、皮膚原発の血管肉腫は内臓器原発のものに比べ、攻撃性が低い傾向にあります。

転移は血行性または腫瘤破裂後の播種性に発生します。
転移部位は肝臓や大網、腹膜、肺が起こりやすい場所として知られています。
その他に犬の血管肉腫は脳転移も起こしやすい腫瘍であり、脳に腫瘍が転移した犬を調べた研究では最も転移が多かったのは血管肉腫であったという報告があります。

Of the 177 secondary brain tumors, 51 (29%) were HSAs, 44 (25%) were pituitary tumors, 21 (12%) were lymphosarcomas, and 21 (12%) were metastatic carcinomas.

Secondary intracranial neoplasia in the dog: 177 cases (1986-2003)

肉眼像と組織像

肉眼的な見え方

大きさ:様々
色調:白茶色っぽい色から暗赤色
固さ:柔らかくゼラチン状で脆い
内容物:血液や壊死物質を多く含む

組織学的な見え方

多角形のものから紡錘形の細胞が不整な血管構造を形成し、中に血液や血栓を作っているのが特徴です。

免疫組織化学染色ではフォンウィルブランド因子やCD31/血小板内皮細胞接着分子などを用いて内皮細胞の由来を特定するとともに、その他の肉腫を除外することで診断を付けていきます。

猫の血管肉腫

猫の場合、皮膚と内臓器(脾臓、肝臓、腸管など)に発生するのが一般的です。
その他の発生部位としては心臓や胸腔、眼瞼や結膜、指先、鼻腔内などが報告として挙げられます。

生物学的挙動としては犬ほどしっかりと調べられていないのではっきりとは分かってはいませんが、犬と類似した挙動を示す可能性が高いです。

経過と臨床症状

症状は腫瘍が発生している場所によって変わってきますが、多くの場合は曖昧であり、非特異的な症状が認められます。
血管肉腫の臨床症状は腫瘤が破裂しない限り、顕著な症状を見せることはありません。

出血性ショック

腫瘤が破裂したタイミングで出血性ショックが起こった場合は、急性の虚脱や突然死なども起こり得ます。
血管肉腫は破裂することが多く、ショック状態になることがあります。
ショックにまで至らなくとも腫瘍が出血すると、以下のような症状が出てきます。

出血性ショックの症状
  • 力が抜けたり、立てなくなる
  • 可視粘膜が白くなる
  • 体重減少
  • 低酸素血症
  • 腹囲膨満・波動感
  • 嘔吐
  • 運動不耐性
  • 呼吸困難
  • 拍動が弱い頻脈

心タンポナーデ

右心房に発生した血管肉腫が破裂すると心タンポナーデといって、
心嚢水が溜まり、心臓の動きが抑制されることで、重篤な循環不全を引き起こします。

心音が消失したり、奇脈が出現したり、右心不全に伴う腹水の貯留が認められることもあります。

診断方法

血管肉腫の診断方法
  1. 血液検査(CBC、生化学、凝固)
  2. 胸部レントゲン検査(3方向)
  3. 腹部超音波検査
  4. 心エコー検査

①血液検査

貧血

貧血は再生性または非再生性貧血のどちらでも起こります。

血液塗抹検査では破砕赤血球や有棘赤血球、有核赤血球が認められることが多く、
血管肉腫のような血管構造が不整な場所を通過すると、赤血球の形が変形することがあります。

このような貧血症例に対し、手術を行う場合は輸血を行う必要があります。

好中球増加症

好中球増加症は腫瘍随伴症候群や腫瘍壊死に伴って2次的に発生することが多いです。

凝固異常

血小板減少症

急性の出血や腫瘍内出血、凝固因子の消費によって血小板数が減少することが多いです。

二次止血の延長

血管肉腫の約半数の症例(15匹中7匹)で二次止血の指標であるPTやAPTT、FDP、D-ダイマーが異常値を示し、播種性血管内凝固(DIC)に陥っています。

The incidence of DIC in dogs with hemangiosarcoma was 46.7%.
※引用より一部改変

The Incidence of Disseminated Intravascular Coagulation in Dogs with Malignant Tumor

生化学検査

血管肉腫の症例では低アルブミン血症や高窒素血症、肝酵素の上昇などが認められることがありますが、この数値に異常があれば血管肉腫を疑うというような特異的な所見というのはありません。

②胸部レントゲン検査

血管肉腫の肺転移を確認するために3方向の胸部レントゲン検査は欠かせません。
ある研究では3方向で撮影した群と1方向または2方向で撮影した群で比較したところ、肺転移を見逃す確率が有意に減少したという報告があります。

The incidence of false-negative radiographic diagnosis for pulmonary HSA was lower in dogs when left and right lateral views were obtained.

Correlation between thoracic radiographs and postmortem findings in dogs with hemangiosarcoma: 77 cases (1984-1989)

レントゲン検査での見え方としてバリエーションに富んでおり、さまざまな見え方を示します。
その中でも血管肉腫の肺転移は肺間質に結節性病変や粟粒性病変を作ることが多いです。

心タンポナーデになっている場合は心嚢水が貯留しているため、球形の心陰影(globoid cardiac silhouette)が認められます。
拍出不全になっている場合は後大静脈の拡張などが認められることもあります。

③腹部超音波検査

内臓器に発生している腫瘍は腹部超音波検査によって、最初に見つかることが多いです。

超音波画像ではさまざまな見え方を示しますが、
低エコー性から混合エコー性に認められ、標的病変を形成することが多いです。
腫瘤が破裂していた場合は、腹水の貯留を伴うこともあります。

④心エコー検査

心臓の血管肉腫の診断には心エコー検査が有用です。
心嚢水が溜まっている場合はより血管肉腫の可能性が高くなります。

血管肉腫だった場合、抗がん剤治療にはドキソルビシンが使用されることが多いです。
ドキソルビシンは副作用として心筋傷害作用があり、拡張型心筋症のリスクをあげてしまいます。
グレートデンやボクサー、ロットワイラー、ドーベルマンのような拡張型心筋症の好発犬種ではドキソルビシンを投与する前に、心エコー検査によって心臓の収縮力を評価しておくことが推奨されます。

CT検査・MRI検査

血管肉腫の診断にはCT検査やMRI検査が用いられることがあります。
これらの検査では
・早期の遠隔転移の検出
・原発巣の特定
・手術計画(切除範囲の決定)
・ステージング
・放射線治療の経過
などに役立ちます。

ステージング

今までお話ししてきた検査を用いて、ステージ分類(ステージング)を行います。

ステージングを行うにはTNM分類といって、腫瘍がどの程度拡がっているかを設定された基準ごとに仕分けていきます。
こういったTNM分類を完成させることにより腫瘍の進行度や治療目的がおのずと明確になります。
血管肉腫における臨床ステージは以下の表の通りに分類されます。

バイオマーカーの利用価値

心筋マーカーの利用価値

心筋のダメージを評価するマーカーとして血漿心筋トロポニンⅠ(cTnⅠ)があります。
血漿心筋トロポニンⅠは心筋のダメージの評価に優れており、心臓原発の血管肉腫において他部位に発生した血管肉腫や血管肉腫以外の心疾患と比較し、有意に上昇することが知られています。

Median plasma cTnl concentration in dogs with cardiac hemangiosarcoma was significantly higher than the concentration in each of the other groups. A plasma cTnl concentration > 0.25 ng/mL could be used to identify cardiac involvement in dogs with hemangiosarcoma at any site (sensitivity, 78%; specificity, 71 %). 

Comparison of plasma cardiac troponin I concentrations among dogs with cardiac hemangiosarcoma, noncardiac hemangiosarcoma, other neoplasms, and pericardial effusion of nonhemangiosarcoma origin

その他のバイオマーカー

血漿心筋トロポニンⅠ(cTnⅠ)の他にも以下のようなものが挙げられます。
血漿VEGF濃度や尿中bFGF濃度の測定も血管肉腫の補助診断として使えるのではないかと言われています。

  • 血漿VEGF濃度
  • 尿中bFGF濃度
  • チミジンキナーゼ(DNA合成のマーカー)
  • 血清コラーゲンXXVII(血管新生のマーカー)

確定診断を行う方法

血管肉腫の確定診断には病理組織学的評価が必要です。

細胞診では異型性の高い大型の紡錘形の細胞が採取されてくることが多く、細胞質は好塩基性で一部で空胞を有しているのが特徴です。
しかし、細胞診だと血液豊富な腫瘍である血管肉腫では血液希釈が起こり、診断精度が下がります。

また、血管肉腫の破裂によって滲出した腹水や胸水での細胞診では診断が付くことは滅多にありません。

治療法

外科療法

外科手術は局所病変に対する治療であり、転移が認められない腫瘍で選択されます。

脾臓の血管肉腫

脾臓の血管肉腫に関しては脾臓摘出が第一選択となります。脾臓摘出を行う際は、一緒に肝臓や大網に転移病巣や播種病変がないかのチェックが必要です。
大網に多発性の赤色の結節性病変があった場合は、血管肉腫の播種が拡がっている可能性があるので、一部採取し組織生検を行うことが推奨されます。

肝臓の血管肉腫

近年の報告では肝臓の血管肉腫の多くは多発性であり、半分ぐらいの症例で転移が成立しています。状況によりけりですが、多発性の腫瘤の場合には肝葉切除のような外科的切除は不適応となります。

皮膚・皮下の血管肉腫

皮膚や皮下に発生した血管肉腫に関しては軟部組織肉腫や悪性腫瘍に対する治療と同じような対応が考慮されます。

皮膚の血管肉腫は水平マージン1~2cm、深部マージン筋膜1枚で十分なことが多いです。
一方で、
皮下や筋間に発生した血管肉腫は浸潤性が強いです。
四肢に発生した場合は広範囲切除が困難であるため、断脚術が必要となることがあります。

心臓の血管肉腫

心臓の血管肉腫は外科適応となることはほとんどありませんが、右心耳に発生した腫瘤は開胸術や胸腔鏡を用いて、ステープラーにより切除されることが稀にあります。

後はあくまで緩和的手術になりますが、心タンポナーデを予防するために心膜切除を行うこともあります。

化学療法

皮膚に限局した血管肉腫を除き、多くの血管肉腫では高い転移性を示すことから、アジュバント療法といって、手術後に抗がん剤治療を行うことが推奨されます。

ドキソルビシン

血管肉腫に対する抗がん剤治療で最も選択されるのが『ドキソルビシン』と呼ばれる抗がん剤で、多くの抗がん剤プロトコールはこのドキソルビシンを主体に組まれています。

よくあるプロトコール
  • ドキソルビシン(DOX)単剤療法
  • DOX+シクロホスファミド(CYC)
  • DOX+ミノサイクリン
  • DOX+ビンクリスチン( VCR)+CYC
    (VACプロトコール)
  • DOX+VCR+メトトレキサート
  • DOX+VCR+ダカルバジン
    (DVAプロトコール)
  • DOX+イフォスファミド
  • DOX+ダカルバジン

ドキソルビシン以外の抗がん剤

ドキソルビシンの副作用として心筋毒性があります。
血管肉腫を患っている症例で心筋症リスクが高い犬種や既に心筋症を患っている犬では、
ドキソルビシン以外の化学療法として、

  • イホスファミド
  • リポソーム封入塩酸ドキソルビシン(Doxil)
  • エピルビシン

などが選択されます。

リポソーム封入塩酸ドキソルビシン

リポソーム封入塩酸ドキソルビシンとはドキソルビシンが脂質の膜に包まれた状態で腫瘍組織に選択的に蓄積されるように改良された抗がん剤で、副作用が軽減されています。
欠点としてはかなり高価な薬で、1本だいたい10万円近くします。

エピルビシン

エピルビシンはドキソルビシンの立体異性体で、作用機序や使い方、用量はドキソルビシンと一緒です。
エピルビシンを用いて治療した血管肉腫の症例では臨床的な心疾患が認められなかったことから、心筋毒性はドキソルビシンと比較し、低いのではないかと思われます。
しかし、一方で吐いたり、下痢するといった胃腸毒性はドキソルビシンよりも強く出たということから、一長一短あるようです。

Epirubicin should be considered as an alternative to doxorubicin in dogs with preexisting cardiac disease, as clinical epirubicin cardiotoxicity was not diagnosed in treated dogs.

Epirubicin in the adjuvant treatment of splenic hemangiosarcoma in dogs: 59 cases (1997-2004)

メトロノーム療法という選択肢

メトロノーム療法とは

低用量の化学療法剤を持続して投与することで腫瘍血管を標的にした化学療法です。
腫瘍の退行よりも安定化を目指したもので、副作用を抑え、腫瘍と共存することで生活の質の改善や延命効果を得ることを目的とした治療です。

血管肉腫という腫瘍の正体は血管内皮細胞が腫瘍化したものであり、血管新生を抑制する治療は理にかなっていると考えられており、研究が進んでいます。
よく使用されるのが、シクロホスファミドとNSAIDsです。

メトロノーム療法を用いた研究

脾臓摘出を行ったステージⅡの症例に対して、メトロノーム療法(ピロキシカム+シクロホスファミド+エトポシド)を投与した症例とドキソルビシン主体の抗がん剤治療を受けた症例を比較した研究では、生存期間中央値は似たような治療成績が得られています。

By Kaplan Meir survival analysis it was determeined that the median overall survival time for dogs in the LDC group was 178 days, which was significantly longer (P = .03) than the median overall survival time of 133 dats for dogs in the DOX group.

Continuous low-dose oral chemotherapy for adjuvant therapy of splenic hemangiosarcoma in dogs

その他にも、ドキソルビシン単剤療法を行った群とドキソルビシン単剤療法後にメトロノーム療法(シクロホスファミドとサリドマイド)を行った群ではメトロノーム療法を併用した群の方が生存期間が伸びていたという報告があります。

Twelve dogs received MTDC, and 10 received MC thereafter. Median TTM and ST were significantly longer for dogs receiving MTDC-MC (not reached versus 150 days, P = 0.028; and not reached versus 168 days, P = 0.030, respectively).

A retrospective analysis of chemotherapy switch suggests improved outcome in surgically removed, biologically aggressive canine haemangiosarcoma
メトロノーム療法の利点と欠点

メトロノーム療法は通常の化学療法よりも低容量で投与する分、副作用が少ないというメリットがありますが、抗腫瘍効果が低く、転移病巣の縮小や生存期間の延長は期待できません。
さらに、自宅で家族の方が投与する必要があるため、抗がん剤の薬剤暴露という点からも使用する際は十分に注意が必要となります。

放射線療法

血管肉腫に対して、放射線治療が選択されることは稀です。
その理由は放射線治療は局所療法であり、血管肉腫のような内臓器に発生しやすく、高い転移性を示す腫瘍に対して不向きであるからです。

脾臓以外の血管肉腫において低分割照射(緩和的照射)を行った症例では生存期間の延長は認められなかったものの、腫瘍サイズの縮小が起こったという報告はあります。

その他にも、心臓の血管肉腫に対して低分割照射を行ったパイロット研究では心嚢水が貯留する頻度が低下し、心膜穿刺の回数を減らすことができたという報告もあります。

In this population of dogs, RT was delivered without complication, and appears to have reduced the frequency of periacardial tamponade that necessitated pericardiocentesis.

Pilot study to determine the feasibility of radiation therapy for dogs with right atrial masses and hemorrhagic pericardial effusion

分子標的薬

分子標的薬は血管肉腫に対して治療効果を示す可能性があります。

犬の血管肉腫ではPDGF受容体、VEGF受容体、SCF受容体(KIT)の発現が確認されています。

こういった受容体をブロックする薬としてマスチニブ、イマチニチブ、ダサチニブなどの分子標的薬があり、in vitroの研究ではこれらの薬が血管肉腫の細胞に対し、成長阻害やアポトーシスを誘導します。
しかし、この効果を引き出すほどの薬剤強度を生体に使用するとなると、毒性が強く出てしまうので使用するのは困難です。

トセラニブ(パラディア®️)の使用

トセラニブはKITやPDGF、VEGFのシグナルをブロックすることで、多くの腫瘍の対して活性を示すことが知られています。

血管肉腫のようにVEGFやVEGF受容体が多く発現している腫瘍に対して、トセラニブを使用することに関心が集まっています。
しかし、StageⅠやⅡの血管肉腫で脾臓摘出とドキソルビシンを投与後に使用した研究では生存期間中央値の明らかな延長は認められなかったと報告されています。

The median survival time for all dogs enrolled in this study was 169 days, and the median survival time for those dogs that went on to receive toceranib was 172 days.
(中略)
The use of toceranib following DOX chemotherapy does not improve either disease free interval or overall survival in dogs with stage I or II HSA.

Maintenance therapy with toceranib following doxorubicin-based chemotherapy for canine splenic hemangiosarcoma

予後(犬の場合)

犬の血管肉腫の予後は発生部位、ステージ、治療法によって大きく左右されます。

脾臓の血管肉腫

脾臓の血管肉腫は脾臓摘出だけでは予後が悪く、生存期間中央値(MST)は19~86日ほどです。その多くは遠隔転移が起こります。
そのため、脾臓の血管肉腫の場合、脾臓摘出に加えドキソルビシンベースの抗がん剤プロトコールがセットで行われます。

術後に抗がん剤を投与したとしてもそれほどMSTを伸ばすことはできず、伸びても5~7ヶ月程度で、90%以上の症例は12ヶ月以内に亡くなります。

ステージ分類は予後判定に役立ちます。
StageⅠは比較的経過は良好で、MSTが239-355日ぐらいです。
一方でStageⅡは術後に抗がん剤治療を行なったとしてもMSTは120~148日ぐらいです。
このようにステージによって、生存期間は大きく変わってきます。

脾臓以外の血管肉腫

腎臓の血管肉腫

腎臓の血管肉腫は他の内臓器に発生した血管肉腫と比較し、予後は良好です。
MSTは9ヶ月ほどあります。

All 14 dogs died, with a median survival time of278 days (range 0–1,005 days) and a 1-year survival rateof 29%.

Comparative aspects and clinical outcomes of canine renal hemangiosarcoma

後腹膜の血管肉腫

後腹膜に発生した血管肉腫は予後が悪く、14匹の犬で調べた研究ではMSTが37.5日だったと報告されています。
ただし、海外は日本と比較し、安楽死を実施する飼い主が多く、本文献においても安楽死を実施した症例が数例混在していることから、純粋な生存期間ではないことに注意しなければいけません。

皮膚・筋肉の血管肉腫

表皮の血管肉腫

表皮に限局して発生している血管肉腫に対しては完全切除によって長期生存(MST1087~1570日)が見込めます。
一方で、皮下にまで浸潤している血管肉腫は転移することが多く、MSTは539日と少し短くなっています。

皮下、筋肉の血管肉腫

また皮下や筋間に発生した血管肉腫は皮膚に発生したものに比べ、攻撃性が強く、転移もしやすいため、手術を行なった症例でもMST(8~9ヶ月)は短くなります。
そのため、アジュバント療法として術後の抗がん剤治療が推奨されています。

手術不適応な症例では緩和治療として抗がん剤だけを投与する場合がありますが、当然ながら生存期間は外科手術を行なった症例よりは短くなります。

心臓の血管肉腫

心臓の血管肉腫は予後不良であり、治療を行わなかったほとんどの症例は2週間以内に亡くなります。
心臓の血管肉腫は外科的切除は稀なケースではありますが、実施されることがあり、1~3ヶ月程度のMSTが確保できます。

胸腔鏡や肋間開胸による心膜切除は緩和的治療として検討されますが、それ自体が生存期間の延長に関わることはなく、MSTは3~4ヶ月ぐらいだという報告があります。

For neoplastic pericardial effusion, DFI and MST were not significantly different between dogs treated with either surgical technique.

Outcome evaluation of a thoracoscopic pericardial window procedure or subtotal pericardectomy via thoracotomy for the treatment of pericardial effusion in dogs

化学療法の有効性が示唆されており、ドキソルビシンを主体として抗がん剤治療が選択されます。

進行症例(StageⅢ)に対する全身治療

手術が不適応な症例や進行症例に対しては全身治療として化学療法が選択されます。

各治療のMST
  • ドキソルビシン+デラコキシブ:149日
  • DVA(ダカルバジン+VCR+DOX):101日
  • VAC(VCR+DOX+CYC):195日

StageⅠ~Ⅲを合わせたMSTは150日

各化学療法のプロトコールによってMSTが若干異なりますが、
ビンクリスチン(VCR)とドキソルビシン(DOX)+シクロホスファミド(CYC)を組み合わせたVACプロトコールを実施したStageⅢの症例ではStageⅠやⅡの症例と比較し、MSTに有意差がなかったという報告があり、より効果的な治療ではないかと思われます。

All dogs received the VAC protocol as an adjuvant to surgery (n = 50), neoadjuvant (n = 3), or as the sole treatment modality (n = 14). There was no significant difference (P = 0.97) between the MST of dogs with stage III and stage I/II HSA. For dogs presenting with splenic HSA alone, there was no significant difference between the MST of dogs with stage III and stage I/II disease (P = 0.12). 

VAC protocol for treatment of dogs with stage III hemangiosarcoma

最後に

今回は『血管肉腫』について解説しました。
血管肉腫は全身至る所で発生する腫瘍で、外科的切除と抗がん剤治療を組み合わせて治療を進めていきます。
しかし、多くの場合は転移が成立してしまい、長期的な予後を良くありません。

外科手術と抗がん剤を併用した場合は生存期間が若干伸びることも報告として上がっていますし、分子標的薬の使用も注目されている治療になっています。
転移症例だからと諦めるのではなく、抗がん剤治療を行なっていくのも一つの方法だと思われます。

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