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“ステロイド”が体に与える影響について

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はじめに

ワン太

最近、めっちゃ体が痒くて今日病院に行ったの
そしたら、ステロイド?っていう薬を出されたみたいで、お母さんが副作用について色々聞いてた
ステロイドってどんな薬なの?

オタ福

ステロイドが出されたんやね
ステロイドは体の炎症や免疫を抑える薬で即効性もあって、とても便利な薬だよ
でも、その分使い方を間違えるとトラブルも多い『諸刃の剣』みたいな薬やで

ワン太

え!そうなんだ!
診察室でお母さんと先生が副作用について話してたんだけど、よく分からなかったから教えてほしい

オタ福

薬の主作用と副作用は表裏一体、副作用について話すよりもステロイド自体が体に与える影響を知る方が大切やで!
ということで、今日はステロイドが体に与える影響を説明していくな

ステロイドってどんな薬?

通称”ステロイド”とは

まずはステロイドというものがどういうものを指すのかを明らかにしておきます。ステロイドとは構造式にステロイド核をもつホルモンを総称したものを呼ぶのですが、動物医療では”ステロイド”というと”グルココルチコイド”のことを呼ぶのが一般的です。本記事で扱う”ステロイド”もグルココルチコイドの通称として使用していきます。

グルココルチコイドの薬理作用

薬全般に言えることですが、投与した薬が体の細胞にまで行き届けるには受容体が必要となります。
イメージとしては『鍵と鍵穴』で、薬が”鍵”で体についてある受容体が”鍵穴”となり扉が開いて、初めて薬が効くという仕組みです。

グルココルチコイドの受容体は体内のほぼ全ての細胞に存在しているため、全身に効果を発現させてしまいます。

グルココルチコイドがグルココルチコイド受容体に結合すると、核内に移動し、DNAと結合することで、遺伝子の転写調節が行われます。このようにして、抗炎症作用を示したり、サイトカインを放出させたりと様々な作用を示すようになるのです。

小まとめ
  • 通称”ステロイド”=グルココルチコイド
  • グルココルチコイドは遺伝子の転写調節を行う

体に与える影響

その1:心血管系

グルココルチコイドは毛細血管浸透圧を低下させ、血管収縮作用を高めます。また、軽度の陽性変力作用が認められることがあります。陽性変力作用とは心拍数や心拍出量が増加することを言います。
薬の血管収縮作用と循環血液量の増加によって血圧が上昇します。

血管収縮作用の強化と陽性変力作用により血圧が上昇する

その2:細胞

グルココルチコイドは線維芽細胞の増殖やMIF(遊走阻止因子)に対するマクロファージの反応性、リンパ球の感作、炎症メディエーターに対する細胞応答を阻害します。その他の作用として、リソソーム膜を安定化させます。

その3:中枢神経系

グルココルチコイドは中枢神経系に作用して、発作の閾値を下げたり、行動や気分を変えるような作用もあります。パイロジェンを減少させたり、食欲の刺激、α波の維持などに関与しています。

発作の閾値を下げる

発作はてんかん発作が発生する脳細胞の興奮がある一定の閾値に達すると発生するという考え方が一般的に用いられており、発作の閾値を下げるということは発作のリスクを高めてしまう可能性があります。ただし、犬猫の発作の場合、グルココルチコイドが治療に必要となるケースもあるため、一辺倒な考え方では解釈できないので注意です。

パイロジェンを減少させる

パイロジェンとは『自然免疫を活性化させることで、体温を上昇させる物質』です。パイトロジェンを減少させる作用を有するため、解熱作用を持っています。

発作の閾値を下げる作用があるが、疾患によっては発作を止めるために使用される場合もある

その4:内分泌系

グルココルチコイドの調整

動物はストレスを感じていない時、グルココルチコイドは下垂体前葉からのACTHの放出を抑制することで、内因性グルココルチコイドの分泌を防いでいます。
しかし、ストレス因子(腎臓病、肝疾患、糖尿病)が存在する場合は外因性に投与されたグルココルチコイドの抑制作用を無効にすることがあります。
この作用によって、長期的に高用量のステロイド投与を行うと、ACTHの分泌が減少し、医原性の副腎皮質機能低下症(医原性アジソン病)になってしまいます。

甲状腺ホルモンの減少

グルココルチコイドが薬用量で投与された場合、TSH(サイロイド刺激ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、プロラクチン、LH(黄体ホルモン)の放出は全て減少します。
甲状腺ホルモンの一種であるT4(サイロキシン)からT3(トリヨードサイロニン)への転換も減少します。
実際に甲状腺ホルモンとして機能するのはT3なので、ここの転換が抑制を受けると、甲状腺ホルモンが少なくなってしまいます。

その他のホルモンへの影響

副甲状腺ホルモン(パラソルモン)の血漿濃度は上昇します。また、骨芽細胞の機能を低下させます。
腎尿細管においてバソプレシン(抗利尿ホルモン)の活性が低下することで、多尿傾向を示すことがあります。
インスリンがインスリン受容体と結合するのを阻害し、インスリンの作用を無効化します。

グルココルチコイドは様々な内分泌系に作用を起こすため、投薬中のクッシング症候群や甲状腺機能低下症の診断には注意が必要となる

その5:造血器系

グルココルチコイドは循環プールにある血小板と好中球と赤血球の数を増やす一方で、血小板凝集能を阻害します。
リンパ球や好酸球の減少はグルココルチコイドが肺や脾臓にこれらの細胞を隔離させたり、骨髄からの動員数を減少させたりすることで起こります。

こうした作用により、ステロイドを使用すると血液検査上で『ストレスパターン』と呼ばれる好中球の増加、リンパ球の減少、単球の増加または減少、好酸球の増加が見られるようになります。

その6:消化管と肝臓

消化管に与える影響

グルココルチコイドは胃酸やペプシン、トリプシンなどの消化酵素の分泌を促進します。それらはムチンの構造を変化させ、粘膜細胞の増殖を低下させます。

脂肪の吸収が促進する一方で、鉄やカルシウムの吸収は減少します。高カルシウム血症の時にステロイドが使用されるのはこうしたカルシウムやビタミンDの吸収を抑えるためです。

肝臓に与える影響

グリコーゲンや脂肪が肝細胞内に取り込まれたり、血液生化学検査でALTやGGTの上昇が認められたりするのがグルココルチコイドの特徴です。特にALPはステロイドの投与によって著しく上昇します。ステロイド投薬中は肝臓の数値をモニターする必要があるのはこの作用のためです。

肝酵素の上昇はほとんどの症例で起こるものだと思って方が良い

その7:免疫系

グルココルチコイドは基本的に免疫を抑制させるように働きかけます。
顕著なのがTリンパ球の減少で、Tリンパ球の循環血液中での水準を低下させます。
その他の作用として、
・リンホカインの阻害
・好中球、マクロファージ、単球の遊走の阻害
・インターフェロン産生の阻害
・貪食作用・走化作用の阻害
・抗原プロセッシングの阻害
・肥満細胞の減少およびヒスタミン合成の抑制
などがグルココルチコイドが免疫系に作用するプロセスはたくさんあります。

用語説明

●リンホカイン
→抗原を認識したリンパ球から産生されるサイトカインの一種

●走化作用
→特定の化学物質に対して方向性を持って行動を起こす現象

●抗原プロセッシング
→抗原タンパクがペプチドにまで分解され、Tリンパ球に認識される現象

感染症を隠す危険性

特異的な獲得免疫は非特異的免疫、いわゆる自然免疫よりはグルココルチコイドの影響は受けにくいと言われていますが、グルココルチコイドは補体カスケードと呼ばれる病原体を排除するのに必要な抗体や貪食細胞をサポートする経路を抑制し、感染症による臨床症状を隠してしまう(マスクする)危険性があるので、感染症が疑われる場合には注意する必要があります。

感染症の可能性がある場合は投薬を慎重に検討するべき

その8:代謝系

糖新生が活性化する

グルココルチコイドは糖新生を活性化させます。脂肪酸は体内の組織から動員され、酸化が亢進します。これに伴い血漿中のトリグリセリドやコレステロール、グリセロールの濃度が上昇します。タンパク質は筋肉を中心に体のほとんどの部位から動員されます。

体型が変化してくる

このように脂質生合成が腹部などの特定の場所で強化される他、四肢などの脂肪組織は体幹部分に再分配され、四肢は細くなり、お腹や胸あたりの脂肪が分厚くなります。ステロイドの過剰投与やクッシング症候群でお腹がポコっと膨らんでくるのはこうした作用によって、筋肉が分解され、腹部周囲に脂肪がついてくることが原因となります。

その9:筋骨格系

グルココルチコイドは筋力低下や筋萎縮、骨粗しょう症などを引き起こすことがあります。
骨成長も阻害されます。
その経路としては以下のものが挙げられます。

骨成長を阻害する因子

①成長ホルモンの阻害
②ソマトメジンの阻害
③カルシウム排泄の促進
④ビタミンD活性の抑制

その他にも骨の再吸収の強化や線維軟骨の成長阻害などにも関与します。

その10:眼

長期にわたるグルココルチコイドの使用は眼圧の上昇や緑内障、白内障などを引き起こす可能性があります。

その11:腎臓、電解質

グルココルチコイドはカリウムとカルシウムの排泄を促進し、ナトリウムとクロールの再吸収を亢進させ、細胞外液量を増加させます。とはいえ、グルココルチコイドの投与で低カリウム血症や低カルシウム血症が起こるのは滅多にありません。

その12:皮膚

グルココルチコイドの投薬中は皮膚組織の菲薄化と皮膚の萎縮がみられる事があります。毛包が膨化したり、脱毛が見られることもあります。

まとめ

今回は臨床現場でよく使用されるステロイド(グルココルチコイド)が体に与える影響について説明しました。グルココルチコイドの受容体は全身にあるため、投与すると全身に作用してしまいます。中には怖い話もいくつくかありましたが、ステロイドは決して危険な薬ではなく、使い方によっては非常に有用性が高い優秀な薬です。

ワン太

僕らに使われているステロイドはグルココルチコイドっていう薬なんだ!
いろんな作用があって勉強になったよ!

オタ福

そうやねん、ステロイドはいろんな作用がある分、使い勝手がいい薬なんやけど、上手に使わないと副作用が出てしまう薬でもある。
だから、“とりあえずのステロイド”にならないようにきちんと診断をしていく必要があるんやで!

本記事の参考図書

Donald C. Plumb ; Plumb’s Veterinary Drug Handbook. 9th ed., 2018, p979-984

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