犬の胆嚢粘液嚢腫とは?原因、症状、治療法、予防策を徹底解説!

はじめに
愛犬が元気を失ったり、食欲不振になると心配になりますよね。犬に多く見られる肝胆道疾患の一つに『胆嚢粘液嚢腫』があります。
この疾患は初期には症状が現れにくいものの、放置すると命に関わることもあります。この記事では、胆嚢粘液嚢腫の原因や症状、治療法、そして予防策について詳しく解説します!
胆嚢粘液嚢腫とは?
胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)は、胆嚢の中に「ムチン」と呼ばれるゼリー状の粘液が蓄積する病気です。
このムチンの増加によって、消化に重要な役割を果たす胆汁の流れが悪くなり、さまざまな健康トラブルを引き起こします。
この疾患は中高齢の犬に発生しやすく、特にやや太り気味の子で発症率が高いとされています。ただし、初期の段階では目立った症状がほとんどなく、進行してから以下のような症状が現れることがあります:
- 吐き気や嘔吐
- 下痢
- 黄疸(皮膚や目が黄色くなる)
症状が出るまで気づきにくいため、定期的な健康診断が非常に重要です。
胆嚢粘液嚢腫の原因
胆嚢粘液嚢腫が発生する主な原因としては、以下の3つが挙げられます。
1. 遺伝的要因
一部の犬種では胆嚢粘液嚢腫の発生リスクが高いことが知られています。特に注意が必要な犬種は以下の通りです:
- シェルティー
- ミニチュアシュナウザー
- チワワ
- トイプードル
これらの犬種を飼っている場合は、日頃から健康管理に気をつけ、定期的な健康診断を行うことが重要です。
2. 内分泌疾患
以下の内分泌疾患を持つ犬では、胆嚢粘液嚢腫の発生リスクが高まるとされています:
- 甲状腺機能低下症
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
これらの病気はホルモンのバランスを崩し、胆汁の流れや胆嚢の機能に影響を与える可能性があります。
3. 高脂血症
高脂血症とは、血液中のコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)が高い状態を指します。この状態は胆嚢粘液嚢腫と深い関連があることが多くの文献で示唆されています。
- シェルティーやミニチュアシュナウザーなど、遺伝的に高脂血症になりやすい犬種がいます。
- 内分泌疾患(甲状腺機能低下症やクッシング症候群)も、高脂血症を引き起こしやすい病気です。
- 高脂質な食事・おやつを食べている子や肥満の子は高脂血症になりやすい傾向にあります。
これらの条件が重なることで胆嚢粘液嚢腫のリスクが高まるため、早期発見のための血液検査や健康診断が大切です。
どんな症状が出るの?
胆嚢粘液嚢腫は、胆汁の流れを妨げるだけでなく、胆嚢自体が膨らみ、さまざまな症状を引き起こします。症状は進行度によって異なり、以下のように段階的に現れます。
1. 初期段階:ほとんど症状が見られない
- 初期の胆嚢粘液嚢腫では目立った症状はほとんどありません。
- この段階での発見は、定期検診や健康診断による超音波検査で偶然見つかることが多いです。
2. 進行段階:胆嚢の拡張と炎症
胆嚢が次第に膨らむことで以下の問題が生じます:
- 血流障害: 胆嚢の壁を走る血管が圧迫され、血流が悪化します。
- 胆嚢炎の発生: 血流障害により胆嚢壁が炎症を起こします。この炎症が肝臓に波及すると肝炎を引き起こすことがあります。
これにより次のような症状が見られるようになります:
- 食欲不振
- 元気消失
- 腹痛や不快感
また、胆汁の流れが悪化すると、消化液が十分に分泌されなくなるため、次の症状が現れることがあります:
- 嘔吐
- 下痢
- 消化不良
3. 重度段階:命に関わる状態
さらに進行すると、胆嚢壁の血流障害が悪化し、次のような深刻な問題が発生することがあります:
- 胆嚢壁の虚血性壊死: 血流不足により胆嚢壁が壊死します。
- 胆嚢の破裂: 壊死により胆嚢が破裂し、腹腔内に胆汁が漏れ出します。
- 胆汁性腹膜炎: 胆汁が腹腔内に広がることで、強い炎症を引き起こします。
これらにより次の症状が現れることがあります:
- 強い腹痛
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- ショック症状
この状態になると緊急手術が必要ですが、胆嚢破裂後の手術は救命率が低下するため、早期発見が非常に重要です。
早期発見をするために
胆嚢粘液嚢腫は、初期症状が非常に曖昧(非特異的)であるため、症状だけで特定することは困難です。そのため、以下のような検査を定期的に受けることが早期発見のカギとなります。
1. 血液検査
胆嚢粘液嚢腫の兆候を捉えるために、血液検査は非常に有用です。特に以下の項目に注目します:
- ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):肝臓に障害があると上昇。
- ALP(アルカリホスファターゼ):胆汁の流れが悪い場合に上昇。
- GGT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ):胆管や胆嚢の異常を示唆。
- Tbil(総ビリルビン):黄疸の指標となる。
- CRP(C反応性蛋白):体内の炎症反応を示す。
これらの数値が上昇している場合は、肝臓や胆道系に炎症が起こっている可能性が考えられます。血液検査で異常が認められた場合、次の段階としてさらに詳しい検査を行います。
2. 超音波検査(エコー検査)
胆嚢粘液嚢腫の確定診断には超音波検査が欠かせません。この検査では胆嚢の内部構造を確認することができ、胆嚢粘液嚢腫に特徴的な所見が見られることが多いです。
- 胆嚢内にゼリー状のムチンが黒く充満し、中央部に白い胆汁が確認されます。
- この特徴的なエコー画像は、「キウイフルーツの断面」に似ていることから、キウイフルーツパターンと呼ばれることもあります。
このパターンが超音波検査で確認された場合、胆嚢粘液嚢腫と診断され、それに応じた治療が必要になります。
どんな治療が必要となる?
胆嚢粘液嚢腫の治療法は、病気の進行度や犬の年齢、全身状態によって異なります。ここでは、早期の内科治療から重症時の外科手術まで、治療の選択肢をご紹介します。
1. 早期・軽症の場合:内科治療
胆嚢粘液嚢腫の初期段階では、主に内科治療を行います。
治療の目的は、胆汁の流れを改善し、胆嚢の状態を安定させることです。
使用する治療法や薬剤
- 利胆剤
- ウルソデオキシコール酸:胆汁を親水性にし、粘度を下げる薬。
- スパカール:十二指腸乳頭を広げて胆汁の排泄を促進。
- 肝保護サプリメント
- SAMe(Sアデノシルメチオニン):抗酸化作用を持ち、肝細胞を保護。
- シリマリン:酸化酵素から肝細胞を保護。
- 食事療法
- 消化器系の低脂肪食:脂肪の消化負担を軽減し、肝機能をサポートする消化器系のフードがオススメ。
経過観察
- 内科治療中は、超音波検査で胆嚢の状態(膨らみや内容物)を定期的に確認します。
- また、血液検査でALTやALP、GGTなどの肝数値が改善しているかを評価します。
2. 重症の場合:外科手術(胆嚢摘出術)
内科治療でも改善が見られない場合や、以下のような緊急性の高い状態になった場合には手術が必要です:
- 胆嚢が破裂した場合
- 総胆管閉塞により状態が悪化した場合
手術のタイミング
- 胆嚢粘液嚢腫の手術時期については、獣医師の判断により異なります。
現状では、学会などでも明確な基準は設定されておらず、意見が分かれています。- 早期手術を選ぶ先生:超音波検査で胆嚢粘液嚢腫が確認された時点で手術を行う方針。
- 内科治療を優先する先生:内科治療で様子を見ながら、破裂や悪化時に手術を行う方針。
- 現時点では、学会等での明確な基準が設定されておらず、最適なタイミングは個々の症例や犬の状態に応じて判断されます。
私の治療方針
- 15歳未満の子: 内科治療で管理しつつ、定期チェックで破裂のリスクが高まれば、手術を積極的に検討します。
- 15歳以上の子: 年齢や体力を考え、破裂や閉塞などの緊急性がなければ、可能な限り内科治療を続けます。
- 15歳をボーダーにしている理由:15歳以上の子は破裂する前に寿命を迎えるケースが高いと考えているためです。
3. なぜ破裂する前に手術をするのか?
胆嚢粘液嚢腫の治療において、胆嚢摘出手術は決して容易な手術ではありません。
術後に合併症が出るリスクがあるため、私は手術の恩恵が得られる時期までは内科治療を優先し、リスクとメリットのバランスを考えることが合理的であると考えています。
手術を行うタイミングは症例によって異なりますが、以下のような場合に検討します:
- 内科治療での改善が見られず、胆嚢が拡張してきた場合。
- 血液検査で肝数値の悪化が確認され、他の臓器に影響が及ぶ可能性が高まった場合。
- 年齢や体力を考慮し、手術の成功率が高いタイミング。
このように、手術のタイミングを慎重に判断することで、犬の体への負担を最小限に抑えながら最良の治療を提供できるよう努めています。
4. 胆嚢が破裂してからの手術リスクについて
- 体力の低下:破裂時は犬の全身状態が著しく悪化しており、手術に耐えられない可能性が高い。
- 炎症による合併症:胆汁漏出による腹膜炎や細菌感染が敗血症を引き起こす。
- 手術の難易度が上がる:
- 壊死した胆嚢壁が肝臓と癒着し、剥離が困難になる。
- 壊れた胆嚢壁を縫合する際、脆い組織が裂けるリスクが高い。
実際に、破裂後に手術を行なった犬よりも破裂前に手術を行った犬の方が救命率が高いことが複数の論文で報告されています。そのため、私は胆嚢摘出は破裂する前に手術を推奨するケースが多いです。
まとめ
胆嚢粘液嚢腫は早期発見が鍵です。日頃から健康診断を受け、愛犬の生活習慣を見直すことで、重症化する前に治療を開始することができます。
春は健康診断のシーズンがやってきます。
フィラリア検査だけでなく、年に一回の血液検査や超音波検査をすることで、未然に防げる病気が発見できるかと思います。
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