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腫瘍随伴症候群:がん性悪液質

悪液質ってなに?

悪液質とは

悪液質とは腫瘍に限らず種々の慢性消耗性疾患に起因する栄養不良により衰弱した状態を言い、場合によっては正常なカロリーを摂取していたといても体重の減少が見られます。
特に、慢性疾患の影響を受け、除脂肪体重(LBM)が減少していく状態を言います。

悪液質を引き起こす代表的な慢性疾患としては
・うっ血性心不全
・腫瘍
・慢性腎臓病
などが挙げられます。
この記事では中でも腫瘍による悪液質『がん性悪液質』を中心にお話ししていきます。

Cachexia is the loss of lean body mass (LBM) that affects a large proportion of dogs and cats with congestive heart failure (CHF), chronic kidney disease (CKD), cancer, and a variety of other chronic diseases. 

Cachexia and sarcopenia: emerging syndromes of importance in dogs and cats

なぜ体重が減るのか

がん患者では複数のメカニズムが関与して、体重の減少が見られます。
食欲低下や食欲不振は進行したガンを持つ動物では一般的に認められる現象で、それは炎症反応やサイトカインによって代謝が変化しているせいだとされています。

IL-1やIL-6といった炎症性サイトカインは食欲抑制シグナルと食欲促進シグナルのバランスを崩すものとして報告されています。がん性悪液質では十分な食事量を摂取していたとしても、筋肉量の著しい減少が認められます。

体重減少に伴う有害事象

除脂肪体重、主に筋肉などのタンパク質が減少してくると、体力は落ち、免疫力も下がり、傷の治りも悪くなります。こうした悪液質の発生は予後不良因子として捉えられており、生存率の低下にも繋がってきます。

小まとめ
  • 悪液質とは慢性疾患によって衰弱した状態
  • 体重減少には炎症性サイトカインが関与する
  • 悪液質は動物の体力を奪い、生存率を低下させる

分子の世界を覗いてみよう!

分子レベルで起こっていること

腫瘍壊死因子(TNF-α)やIL-1、IL-6はがん性悪液質の主要な役割を担っており、これらは食欲不振、異化亢進、体重減少を引き起こします。これはTNF-αやIL-1、IL-6などがリガンドになり、NF-κβの活性化を受けた結果、起こる現象です。もう少し詳しく話します。

NF-κβの活性化

NF-κβは細胞質内に存在しており、転写因子として働くタンパク複合体です。通常時はIκBαと結合しており、その不活化しています。しかし、TNF-αやIL-1、IL-6などがリガンドとして細胞膜受容体に結合すると、それらから発生する刺激により、IκBαがユビキチン化(←目印をつけること)され、プロテアソームによって分解されます。このユビキチンプロテアソーム経路によるIκBαの分解を受け、NF-κβは活性化し、核内へと移行し、転写を行います。

Inducing stimuli trigger IKK activation leading to phosphorylation, ubiquitination, and degradation of IκB proteins. Released NF-κBdimers are further activated through various posttranslational modifications and translocate to the nucleus where they bind to specific DNA sequences and promote transcription of target genes.

Shared principles in NF-kappaB signaling

TNF-αの作用

TNF-αやNF-κβ経由のシグナルはミオスタチンをアップレギュレートします。
ミオスタチンはTGF-βスーパーファミリーの一種であり、骨格筋の増殖を抑制する物質です。さらにTGF-αはGH(成長ホルモン)やIGF-1(インスリン様成長因子)の同化作用も妨害します。

小まとめ
  • TNF-α、IL-1、IL-6が悪液質のきっかけとなる
  • 悪液質にはNF-κβの活性化が関与する
  • ミオスタチンは骨格筋の増殖を抑制する

悪液質の評価方法と対策

BCSとMCSとは

がん性悪液質の明確な基準は定められておらず、議論が続いています。動物の場合はBCS(ボディコンディションスコア)と筋肉量の減少の有無(マッスルコンディションスコア:MCS)を用いて評価します。

画像:ロイヤルカナン HPより引用

BCSとは
BSCとはボディコンディションスコアの略称で、ペットの体格から、痩せすぎか太り過ぎかを脂肪の蓄積量を中心に9段階で判断する身体検査の1つです。ペットの健康的な体格を維持するために使用します。

MSCとは
MSCとはマッスルコンディションスコアの略称で、筋肉量の評価を特異的に行います。筋肉量の評価は側頭部や肩甲骨、体軸、臀部の見た目や触った感覚で評価します。
特に胸背部~腰背部の筋肉は悪液質になると一番早くに病変が出現する部位なので注目しておきましょう。

BCSとMCSの違い
簡単に言うとBSCは『脂肪の蓄積量』を見ています。一方で、MSCは『筋肉量』を見ています。そして、BCSとMCSは必ずしも比例するわけではなく、筋肉量が減っていて、脂肪量が増えているということもあるので、きちんと評価することが大切です。

悪液質の対処方法

悪液質を疑う体重減少や食欲不振が認められた場合は早期に栄養療法を行う必要があります。栄養療法については別の記事で詳しくお話しできればと思います。
食事の与え方を工夫してみたり、食欲刺激薬を使用したり、場合によっては栄養チューブの設置なども検討します。

小まとめ
  • BCSは『脂肪の蓄積量』を評価する
  • MCSは『筋肉量』を評価する
  • 悪液質には早期の栄養療法を行う

まとめ

今回はがん性悪液質についてお話ししました。悪液質はがんをはじめとする慢性疾患が原因で発生します。さらに分子レベルでは慢性疾患に伴う炎症によって発生するTNF-α、IL-1、IL-6がきっかけとなることがわかりました。悪液質の評価はBCSやMCS、体重減少の有無を用いて評価を行い、悪液質が疑われる場合は早期の栄養療法を開始することが推奨されます。

本記事の参考図書

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 739-741p

David M. Vail ; Douglas H. Thamm ; Julius M. Liptak : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 6th ed.,  ELSEVIER, 2019, 98p

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