はじめに
今回のテーマはこちら「末期がんのペットにしてあげられる終末期ケア」です。
今回はご質問頂いた内容を解説するようなものとなっています。
というのも私はココナラというサイトで個別での質問対応を行なっています。
そこで頂いたご質問で、他のご家族も疑問に思われている悩みではないかなと思い、
改めて共有してみようと考えました。
ご質問内容
今年で15歳になる猫を飼っています。
乳腺腫瘍を患っており、すでに肺に転移しています。
かかりつけ医には「やってあげられることはもうない」と言われたのですが、
呼吸が荒く振動そうです。
できる限り痛みや苦しみを緩和させてあげたいと考えています。
何かできることはありますでしょうか?
というご質問です。
つまり、今回のお話というのは
「肺転移が成立してしまっているがん患者に対して、何かしてあげられることはないですか?」というお話になります。
答えは、いくつか手段はあります。
それは以下の通りです。
- 胸水抜去
- ステロイドの服用
- 酸素室の使用
まずは今回の病気である『猫の乳腺腫瘍』について簡単にご説明した後、
具体的にこれらの終末期ケアのお話をしていきたいと思います。
猫の乳腺腫瘍について
猫の乳腺腫瘍は9割近くが悪性で、発見時の大きさやリンパ節転移の有無、行われた術式によって生存期間が変わってきます。
もちろん長生きする条件というのは
できる限り小さい段階で見つける早期発見と両側乳腺全摘出+リンパ節郭清が基本になります。
今回、ご質問頂いた猫ちゃんに関しては肺転移つまり遠隔転移が成立しているため、
両側乳腺全摘出のような根治的手術の適応ではありません。
こういった根治が望めない癌の動物に対しては
痛みや苦しみをなるべく軽減させる『緩和治療』が選択されます。
この猫ちゃんは呼吸が荒くなっていて、しんどそうにしています。
こういった場合にしてあげられる緩和治療をご紹介します。
緩和治療について
胸水抜去
肺転移している動物では胸水が溜まってくることが多いです。
がんは体にとって異物であるため、肺にがんが発生すると、胸の中で強い炎症を引き起こします。
こういったがんによって起こる胸の中の炎症のことを『がん性胸膜炎』と言います。
がん性胸膜炎になると、胸に水が溜まってきます。
がん性胸膜炎による症状
がん性胸膜炎でよく見られる症状は『努力性呼吸』です。
努力性呼吸とは呼吸が荒くなっている様子のことを言います。
肺転移によって、肺がガンに置き換えられるため、呼吸が苦しくなってきます。
さらに、ガン性胸膜炎により胸水が溜まってくると肺が膨らみづらくなるので、
ダブルパンチで呼吸が苦しくなってきます。
肺転移症例への治療
転移した肺腫瘍に対するアプローチは抗がん剤の投与が必要になってきますが、
このような弱っている症例に対してはかえって体調悪化の原因になりかねません。
そこで少しでも効率よく肺を膨らませてあげるためには胸水を抜いてあげると良いと思います。
ステロイドの服用
次はステロイドの服用についてです。
まず最初にステロイドの服用に関しては科学的根拠はありません。
ステロイドは炎症を抑える薬です。
胸膜炎やガンによる炎症を抑えるとともに、食欲が増えるという副作用もあるので、
それらを利用する緩和治療です。
先ほどもお話ししたようにがんは体にとって異物であるため、強い炎症が起こります。
炎症は痛みであったり、倦怠感を誘発するものなので、
そういったしんどくなる要因を抑え込むためにステロイドが使用されます。
しかしあくまで対症療法なので、劇的な効果は期待できません。
「胸水の溜まる速度が少しゆっくりになると良いなぁ」という程度のお薬だと思ってください。
酸素室の使用
最後は酸素室の使用です。
酸素室というのをご存知でしょうか?
酸素室というのは大気中よりも濃い酸素濃度を保てるケージのことで、小型犬や猫であれば、酸素室を使って、呼吸を楽にすることができます。
酸素室に関してはネットで『酸素室 レンタル 犬猫』とか検索を掛ければ、いろんな会社が出てきます。
多くのレンタル会社ではご家族個人でもレンタルが可能です。
ペットの呼吸がしんどそうであれば、そういったものを使用してみるのも一つです。
しかし、いざ借りるとなれば一度主治医と相談されることをお勧めします。
酸素室の注意点
ただ私が診察をしていてよく遭遇するのが、『酸素室から出せない問題』です。
これは一度酸素室にペットを入れてしまうと、
次出す時に呼吸が悪化するのではないかと不安になって、
出せなくなってしまうご家族の心理現象のことを、こう勝手に呼んでいます。
確かに1度酸素室に入れてしまうと出すのが怖くなることがあります。
ただ、そんなに影響はないと思ってください。
よくあるのが、抱っこしようと酸素室から出したタイミングで、息を引き取ったと言って、自分を責めてしまう飼い主さんがいます。
それに関してはほとんど関係はなくて、元々弱っていて、たまたま出したタイミングで亡くなっただけです。
むしろ私は、飼い主さんに抱っこされて安心したから息を引き取ったという風に考えています。
酸素室を使用し始めても、ずっとペットをそこに入れておく必要もないですし、
残された限られた時間をご家族とスキンシップを取ることもペットにとっては幸せの一つです。
なので、そんなに気にしなく大丈夫だと思います。
少なくとも自分を責める必要はありません。
ではまとめに行きます。
最後に
では、今回のまとめです。
- 全身に転移してしまっているような根治が望めない癌の動物に対しては痛みや苦しみをなるべく軽減させる『緩和治療』が選択される。
- 肺転移を起こすと、胸水が溜まることがある。
胸水が溜まっている場合は抜いてあげることで少し呼吸が楽になる。 - 胸膜炎やガンによる炎症を抑える目的でステロイドが使用されることがある。
- 酸素室に入れると呼吸が少し楽になる。
- 限られた時間にスキンシップをとってあげることもペットにとっては幸せの一つです。
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