はじめに
今日は肺腫瘍について話していくな!
肺腫瘍っていうのは文字通り肺にできるガンのことやねんけど、
これがまた厄介で初期症状がほぼないねん
え、初期症状がないんだ!
じゃあ、発見が少し遅れてしまうんだね
どんな症状が出てくるの?
そう!
症状がない分、発見が遅れることが多いねん
よくある症状が『咳』
咳が出るなと思って、病院に行って、
レントゲンを撮ると肺腫瘍が見つかるパターンが多いで!
なるほど
咳も甘く見てはいけないんだね
そうやで!
咳の原因はいっぱいあるけど、高齢な子で咳がある時
レントゲンを撮っておかなあかん!
今回はこんな肺腫瘍について徹底的に解説していくで!!
発生率とリスク因子
発生率と好発年齢と品種
犬や猫に発生する原発性の肺がんは比較的まれであり、その発生率は腫瘍疾患の1%未満と言われています。
肺腫瘍が診断される平均年齢は犬は約11歳、猫は12~13歳ぐらいで発見されます。
また、肺腫瘍が発生しやすい好発品種としては以下のような品種が挙げられます。
●犬
ボクサー、ドーベルマン、オーストラリアン・シェパード、アイリッシュ・セッター、バーニーズ・マウンテン・ドッグ
●猫
ペルシャ
発生リスク因子
人ではタバコが肺がんの発生リスクに関わると言われていますが、犬や猫の肺がんではそのような明確なリスク因子は認められていません。
一応、都会暮らしや受動喫煙が肺がんの発生リスクになるのではないかと言われていますが、しっかりとしたデモンストレーションが行われていないため、なんとも言えません。
以下の文献のように石炭の粉塵と肺がんの発生率に因果関係が認められていることから、受動喫煙が多い犬や都会で排気ガスや工業地帯が近くにある地域ではもしかすると、肺がんのリスクが高まるのかもしれません。
An increased risk of lung cancer was observed in dogs with higher amounts of anthracosis (OR: 2.11, CI 95%: 1.20–3.70; P < 0.01), which suggests an association between anthracosis due to inhalation of polluted air and lung cancer in dogs.
Association between environmental dust exposure and lung cancer in dogs
受動喫煙と犬の肺がん
気管支肺胞洗浄液の細胞学的分析では受動喫煙の機会がある犬とそうでない犬では機会がある犬の方が炭肺症(anthracosis)に罹患している割合が高いということが明らかになっています。
炭肺症と上非成長因子受容体(EGFR)
さらに炭肺症を患っている犬と上皮成長因子受容体(EGFR)の発現量についても言及します。
原発性の肺がんに罹患している犬の肺は正常な犬の肺と比べて、EGFRの発現量が多いことが分かっています。
さらに、そのEGFRの発現量が多い群は炭肺症を患っている犬の肺で有意に多く発生しており、EGFRの発現量が多い群では生存期間が短くなる傾向があります。
The proportion of EGFR-positive tumours was significantly higher in cases with background anthracosis, and the amount of anthracosis was correlated with the percentage of positive tumour cells. Additionally, a trend towards shortened survival for the high EGFR group was observed.
EGFR overexpression in canine primary lung cancer: pathogenetic implications and impact on survival
放射性物質と肺がん
実験的に放射線物質(プルトニウム)を吸引させた犬ではエアロゾルによって肺へ到達し、肺がんの発生率が有意に上昇させました。
- 犬猫の肺腫瘍は発生が少ない
- 受動喫煙が肺がんのリスクになるかも
病因と生物学的挙動
原発性肺腫瘍の種類
犬の原発性肺腫瘍
犬の原発する上皮系の肺腫瘍のうち約85%は気管支肺胞腺癌で、残りの15%が腺扁平上皮癌、扁平上皮癌によって構成されています。
上皮系腫瘍の他にも肺には原発性の組織球性肉腫が発生することがあり、ミニチュア・シュナウザーや日本だとウェルシュ・コーギーが好発犬種として知られています。
猫の原発性肺腫瘍
猫の場合、肺腫瘍の60~70%は腺癌であり、気管支肺胞腺癌や腺扁平上皮癌、扁平上皮癌の発生は稀です。
肺腫瘍の浸潤と転移
転移の経路
肺腫瘍は局所浸潤や血行性、リンパ行性に拡がっていき、他の肺葉に浸潤したり、リンパ節転移や遠隔転移していきます。
肺内転移は血行性、リンパ行性の他に気道内播種を通じて発生すると信じられています。
犬の悪性の原発性肺腫瘍では71%が血管内、リンパ管内への浸潤が成立しており、23%の症例で気管支リンパ節を越えて遠隔転移が成立していることが明らかになっています。
転移しやすい腫瘍
扁平上皮癌は転移率が50%を越えており、腺癌や気管支肺胞上皮癌に比べて転移率が高い腫瘍とされています。
肺指症候群とは(詳細は後述)
猫の肺腫瘍は犬に比べて転移率が高く、76%の症例で転移が成立していると言われています。
中でも特徴的なのが、『肺指症候群』といって肺腫瘍が指先に転移する特徴的な現象が猫では認められます。
- 肺腺癌が多いが、特定の犬種では組織球性肉腫が多い
- 転移は血行性、リンパ行性に起こる
- 猫では肺指症候群が有名
臨床症状と身体検査所見
肺腫瘍だとどんな症状が出るのか?
犬や猫の原発性肺腫瘍は症状が出てからというよりは何らかの検診の時に偶発的に発見されることが多いです。
30%以上の症例で、臨床症状なしに肺腫瘍が診断を受けています。
犬の症状
肺腫瘍の症状で最も多いのは発咳(せき)です。52~93%の症例でこの症状が報告されています。
その他の症状として、呼吸困難(6~24%)、活動性の低下(12~18%)、低酸素症(13%)、体重減少(7~12%)、喀血(3~9%)、肥大整骨症に続発する跛行(4%)が報告されています。
猫の症状
猫の症状も犬と類似しています。
呼吸困難(20~65%)、発咳(29~53%)、頻呼吸(9~14%)、喀血(10%)といった具合に犬と類似した症状を示します。
猫の肺腫瘍では消化器症状が出ることがあります。ここは犬と異なる点です。
具体的には嘔吐や吐出、下痢などが認められ、肺腫瘍をもつ19%の猫でそういった症状があることが報告されています。
身体検査上の異常
呼吸音の異常
肺腫瘍の浸潤に伴って、肺雑音が大きくなってくることがあります。
多くの場合、胸壁へ浸潤するにつれて、呼吸音が鈍い音になってくると言われています。
神経症状
肺腫瘍は血行性に心臓へ流れていき、全身どこにでも転移する可能性があります。中でも神経系に肺腫瘍が転移した場合、神経症状が認められます。
肺腫瘍で起こる肥大性骨症とは
肥大性骨症について
肺腫瘍の症例では跛行が認められることがあります。
その理由として『肥大性骨症』が挙げられます。
肥大性骨症は原発性または転移性の肺腫瘍に続発する腫瘍随伴症候群の一つであり、腫瘍病巣とは離れた位置で、長骨骨幹に沿った新骨を形成する骨膜増殖する疾患です。
肥大性骨症を併発している犬では跛行の他にも四肢が腫れたり、”ocular sign”と呼ばれる症状が報告されています。
肥大性骨症は肺腫瘍を切除すると改善する可能性があります。
ocular signとは?
肥大性骨症と”ocular sign”に明確な因果関係は実証されていませんが、肥大性骨症を併発している犬30匹を用いた文献では30匹中23匹が”ocular sign”を認めたという報告があります。
“ocular sign”とは眼に関わる症状の総称を言います。
具体的な症状としては両側性の漿液性~粘液膿性の眼脂、強膜の充血が報告されています。
Of the 23 dogs that displayed ocular signs on presentation, signs consisted of bilateral serous to mucopurulent discharge (21/23) and/or mild to severe episcleral injection (15/23). In most of these dogs (16/23), no ocular signs were reported or documented during PEs before pHO diagnosis.
Paraneoplastic hypertrophic osteopathy in 30 dogs
指肺症候群について
指肺症候群とは肺腫瘍が指先に転移する現象のこと言い、猫の肺腫瘍で特に扁平上皮癌と肺腺癌の両方で報告をされています。
なぜ指先に転移するのか
なぜ肺腫瘍が指先に転移するのでしょうか?
それは猫の指先は放熱するために血流が多く流れており、肺にある腫瘍細胞が血流に乗って、指先に到達しやすくなるために転移が成立しやすいと言われています。
これが大筋ですが、実際には血流の問題だけではなく、さまざまな因子が転移の微小環境を整えるのに働きかけているのではないかと言われています。
主な症状と対処法
指肺症候群の主な症状は跛行であり、呼吸困難はほとんどの場合で認められません。
文献の著者たちは呼吸状態が問題ない症例に対して、断指術を行うことは推奨していません。
その理由として、そもそも断指術は痛みの緩和を目的に行うものであるのに、断指術を行ったとしても他の指に転移することが多く、跛行は解決できないためです。
- 肺腫瘍の症状は『咳』
- 猫は吐いたり、下痢もある
- 犬の肺腫瘍では跛行(びっこ引くこと)が見られることも
- 肺指症候群では断指は推奨されていない
診断方法
血液検査
血液検査から肺腫瘍の存在を発見することは難しいですが、患者の全身状態の把握やCT検査をする時に麻酔をかけるので、その麻酔前評価を目的として測定します。
ある文献では肥大性骨症を有する犬の半数以上で好中球増加症が認められたという報告があります。
A neutrophilia was observed in 11 of the 20 dogs with a range of 11 322–34 813 µL and a median of 14 181 µL (reference range 3000–10 500 µL), 2 of which also demonstrated a left shift.
Paraneoplastic hypertrophic osteopathy in 30 dogs
胸水の検査
肺腫瘍症例では胸水が認められることがあります。
胸水は犬よりも猫で発生することが多いです。
胸水は胸腔穿刺を行なって採取します。
胸水の性状
肺腫瘍に伴って発生する胸水は色調が無色透明~血様であり、性状は変性漏出液であることが多いです。
原発性肺腫瘍を有する猫の14~30%で胸水が認められたという報告もあります。
漏出液 | 変性漏出液 | 滲出液 | |
比重 | <1.017 | 1.017~1.025 | >1.025 |
TP g/dL | <2.5 | 2.5~5.0 | >3.0 |
細胞数/μL | <1,000 | <5,000 | >5,000 |
胸水から腫瘍診断は可能なのか?
胸水が溜まっている猫を対象に腫瘍の診断ができるのかを調べた研究があります。
胸腔穿刺によって胸水を得られた猫13匹を対象に、胸水検査を行なったところ、12匹の猫で胸水による肺腫瘍の診断ができたという報告があります。
A diagnosis of primary lung tumor was made in 20 of 25 cats from which samples were obtained by means of blind or ultrasound-guided fine-needle aspiration of a mass, 12 of l3 cats from which samples were obtained by means of thoracocentesis, and 5 of 7 cats from which samples were obtained by means of endoscopic bronchiolar brushing.
Primary lung tumors in cats: 86 cases (1979-1994)
報告としてはかなりの確率で診断ができているみたいですが、理想的には胸水だけでなく、他の検査を複合的に組み合わせて診断すべきでしょう。
胸部レントゲン検査
概要
肺腫瘍のほとんどは胸部レントゲン検査によって診断されます。
多くの場合は孤立性の肺腫瘍として確認されますが、中には複数の肺腫瘍を認める場合もあります。
文献によると、少し右の肺葉に発生する確率が多いみたいですが、そこまで左右の肺で発生率は変わらないようです。
犬の肺腫瘍では3cmを超えてくるまでに、臨床症状が認められた症例はおらず、肺腫瘍の発見は遅れる傾向にあるようです。
レントゲンの見え方
原発性肺腫瘍のレントゲンパターンは犬と猫で多種多様の報告があります。
レントゲンパターン
原発性肺腫瘍に罹患した猫41匹を用いて、見え方を3パターンに分類した論文があります。
単一の結節や腫瘤が見られる『焦点性』、1つか複数の肺葉に波及しているが、一部の肺区域に限局している『限局性』、左右両方の肺葉の大部分に腫瘍が波及している『びまん性』の3つに分類しています。
①焦点性:単一の結節・腫瘤
②限局性:一部の区域に限局
③びまん性:左右両方の大部分に波及
腫瘍別のレントゲン所見
犬の論文ですが、レントゲンの見え方によって腫瘍を区別してみようと試みた研究があります。この研究では、組織球性肉腫が上皮系がんと比べ、有意に大きかったという結果が得られました。
さらに、組織球性肉腫は右中葉、左前葉で見つかることが多く、上皮系がんは左後葉で見つかることが多いという結果が得られました。
ただし、発生場所や大きさだけで、腫瘍の種類を診断することはできないので、あくまで手がかりだと考えておいた方が良いでしょう。
Histiocytic sarcomas were significantly larger than other tumor types (271 cm(3); P = 0.009) and most likely to be found in the left cranial (38%; 8/21) and right middle (43%; 9/21) lung lobes, whereas adenocarcinomas were most likely to be found in the left caudal (29%; 9/31) lung lobe.
Radiographic characterization of primary lung tumors in 74 dogs
胸部超音波検査
胸部超音波検査は術前のFNA検査を行う時に使用されることがあります。
超音波での肺腫瘍の見え方は低エコー性~混合エコーに見えたりして様々であり、気管支や血管が消失していることもあります。
CT検査
胸部CT検査は肺腫瘍の術前検査として最もポピュラーな検査になります。
リンパ節転移を検出しやすい
肺葉の診断はもちろんのこと、気管気管支リンパ節への転移があるかを調べるにも胸部CT検査はレントゲンよりも優れています。
ある文献ではレントゲン検査では気管気管支リンパ節転移の検出率が57%だったところが、CT検査を用いると93%にまで上昇したという報告があります。
小さな病変を検出できる
転移性の肺腫瘍は最初とても小さい結節を形成します。肺転移を早期に検出するにはCT検査が推奨されています。
転移病巣はレントゲンでは7~9mm程度の大きさになるまで発見できませんが、CT検査を用いると1mm近い大きさの結節まで発見することが可能になります。
FNA(細胞診)
肺腫瘤に対するFNAは肺葉切除を行う前にどのような腫瘍なのかを評価するために行われることがあります。
一般的に、医原性の肺損傷を防ぐために鎮静下や麻酔下で行われます。
組織生検(バイオプシー)
組織生検を行う目的
組織生検は肺葉切除などの根治治療を行う前に実施されるものですが、その臨床的な意義は議論の中にあります。
組織生検は肺葉切除を実施する前に腫瘤の悪性度や分化度を把握したり、転移性病変ではないことを確認するために行われます。
しかしながら、これらを術前に把握したからといって、『肺葉切除を行う』という最終的な目標が変わらないのであれば、2回麻酔を掛ける必要が出てくるので、あまり臨床的な意味がありません。
組織生検のやり方
その①:コア生検
コア生検を行うときはFNAの時と同様に鎮静下または全身麻酔下で超音波ガイド下で行うことで、事故を防ぐことができます。
ある文献によるとコア生検およびFNAにおける診断精度は92%と高いですが、肺出血(30%)や気胸(27%)などの合併症が発生することがあるという報告があります。
When 18 patients with confirmed diagnoses were used, overall accuracy for diagnosis was 92% for FNA and biopsy and the sensitivity for neoplasia was 91% using fine needle aspirate and 80% using biopsy.
Computed tomography-guided fine-needle aspirate and tissue-core biopsy of intrathoracic lesions in thirty dogs and cats
その②:気管支鏡下生検
気管支鏡の先端にブラシを入れて、粘膜面から細胞を擦り取ってくるような手法がとられます。
このような形で気管支鏡を用いての腫瘍診断は実施されてはいますが、診断精度はそこまで高くはないようです。
その③:胸腔鏡下生検
胸腔鏡は侵襲性が低い術前生検となります。
胸腔鏡は生検を行うだけでなく、胸腔内の探索にも有用です。
- レントゲンで発見することが多い
- CT検査はより細かく評価できる
- 治療方針の決定に細胞診や組織生検は役立つ
治療法
外科療法
原発性肺腫瘍の場合、第一選択として外科的切除が検討されます。
腫瘍にどのようにアプローチするかは腫瘍が存在する場所をもとに現場の臨床医が判断しますが、一応包括的な基準も設けられています。
肋間開胸と胸骨正中切開
腫瘍が肺の片側のみに発生している場合
片側性に発生している場合は肋間開胸術が好ましいとされていて、場合によっては胸骨正中切開をことする場合もあります。
胸腔鏡を用いた肺葉切除も行われる場合がありますが、こちらは技術的に非常に難しいということと、腫瘤の大きさや位置によって適応が絞られることから選択されないことがほとんどです。
腫瘍が肺の両側に発生している場合
肺全域に多発している場合はそもそも手術適応とならないことがありますが、腫瘍の破裂や気管の圧迫によって発咳が目立つ場合は、臨床症状の改善を目的に手術が実施されます。
その場合、胸骨正中切開という術式が選択されるケースがあります。
GIAステープラー
肺葉切除をする際に便利なのが、GIAステープラーという手術器具です。これは肺葉の切断と縫合を一緒にしてくれる器具で、手術時間の短縮に大いに貢献してくれます。
しかし、このGIAステープラーが使用できるのは腫瘍が肺の辺縁に発生している場合で、十分に正常組織との距離がとれる場合に限ります。
肺腫瘍が肺の中心部に発生していた場合は、使用ができません。
また、周辺組織との癒着がひどい場合も使用することが難しいので、使える状況は限られています。
肺葉切除を実施した犬猫37匹の報告では安心安全かつ迅速な手術が可能であったという結果を得ていますが、使用する状況が限られるので、何でもかんでも使える方法ではないことを知っておく必要があります。
Staple resection was believed to be safe, fast, and efficient for removal of various segments of canine and feline lung.
Lung Resection Using Surgical Staples in Dogs and Cats
リンパ節切除
気管気管支リンパ節を切除すべきかという話ですが、肺腫瘍はリンパ節転移の有無で予後が大きく変わる腫瘍なので、ステージングをする目的でリンパ節切除が推奨されています。
推奨されていると書いてますが、個人的な意見としては毎回取りに行かなくでも、
術前のCT検査で領域リンパ節の腫大が認められた場合に切除しに行くというのでも良いとは思います。
化学療法
抗がん剤
肺腫瘍における化学療法に関するデータはあまりないですが、肉眼病変に対する治療効果はあまり期待できないことがほとんどです。
いくつかの報告ではドキソルビシンやミトキサントロン、シスプラチン、ビノレルビンなどの抗がん剤を使用した研究がありますが、どれも効果的なものではありません。
肺腫瘍に対してどうしても抗がん剤を使用するのであれば、シスプラチンかビノレルビンが良いという話ですが、どちらもマイナーな抗がん剤であり、取り扱いがやや煩雑なので、実際の臨床現場で使用されるのは少ない方と思います。
一方で、肺原発の組織球性肉腫ではロムスチンの使用が推奨されています。
分子標的薬
動物の肺腫瘍ではトセラニブ(パラディア®️)が使用されることがあります。
ただし、肺腫瘍におけるトセラニブの効果ははっきりとは分かっていないため、積極的に使用する薬ではありません。
癌性胸水の対応
癌性胸水は全身的な化学療法や胸腔内への局所投与に反応を示すことがあります。カルボプラチンやミトキサントロンの使用で、臨床症状が一時的に改善したという報告もあります。
We believe that mitoxantrone is effective in the treatment of malignant pleural effusion due to pleural involvement with sarcoma without causing significant local or systemic toxicity.
Mitoxantrone for malignant pleural effusion due to metastatic sarcoma
Following complete drainage of the thoracic cavity under ultrasound guidance, 180 mg/m2 carboplatin diluted in 60 ml sterile water was infused into the pleural space (30 ml in each hemithorax). This resulted in complete resolution of clinical signs for 34 days (having required thoracocentesis on four occasions in the preceding 4 weeks).
Palliative intracavitary carboplatin therapy in a cat with suspected pleural mesothelioma
放射線治療
放射線治療のほとんどは局所治療として行われます。
放射線治療は強度変調放射線治療(IMRT)という方法があり、肺のように呼吸と同時に動く臓器にも当てることができます。
- 手術適応なら手術がおすすめ
- リンパ節切除でステージングができるようになる
- 有効な化学療法はないが、効かないとも言えない
予後
原発性肺腫瘍の予後に関わる因子は以下の4つが主となります。
- 臨床症状の有無
- 病期ステージ
- 腫瘍のタイプ
- 組織学的グレード
臨床症状の有無
臨床症状を伴っている犬の生存期間中央値は240日で、無症状の犬の生存期間は545日です。
病期ステージ
1つの肺葉に限局している肺腫瘍(Stage T1)の場合は生存期間中央値790日、
複数の肺葉に多発している肺腫瘍(Stage T2)の場合は生存期間中央値196日、
胸壁などの近隣組織に浸潤している肺腫瘍(Stage T3)の場合は生存期間中央値81日であるという報告があります。
腫瘍のタイプ
乳頭状肺腺癌は他のタイプの腫瘍と比較し、生存期間が長いという報告があります。
ただし、こちらもリンパ節転移が起こっていない段階に限ります。
肺に限局した組織球性肉腫は外科的切除とその後のロムスチンの投与で生存期間中央値が568日だったという報告があります。
組織学的グレード
病理組織学的評価でGrade1の肺腫瘍は生存期間中央値790日、Grade2は生存期間中央値251日、Grade3は生存期間中央値5日という報告があります。
これらの生存期間中央値の報告は1997年のもので、ステージングに関しては2020年に人の肺腫瘍Stageを元に作り変えられているものがあるので、今の情報とは少し異なるかもしれません。
Canine lung carcinoma stage was I (n = 7), II (n = 32), III (n = 24) and IV (n = 8). Median survival time was 952, 658, 158 and 52 days for stages I-IV, respectively. Primary tumour features (T1-T4), incomplete surgical excision, presence of lymph node metastasis and tumour grade were independent prognostic indicators for overall survival.
Retrospective evaluation of a modified human lung cancer stage classification in dogs with surgically excised primary pulmonary carcinomas
リンパ節転移と生存期間
肺腫瘍を摘出した症例67匹を調べた研究ではリンパ節転移が認められない場合の生存中央値は452日で、気管気管支リンパ節への転移が認められる場合は26日と著しく低下したという報告があります。
その他にも似たような報告が複数上がっており、やはりリンパ節転移は生存期間の短縮に繋がると言えます。
肺葉切除を実施する際は領域リンパ節を切除し、ステージングを行うことで、予後の予測を立てることができます。
Dogs with clinical signs or metastasis to regional lymph nodes had shorter survival times and DFI than dogs in which lung masses were discovered as an incidental finding.
Evaluation of prognostic factors for dogs with primary lung tumors: 67 cases (1985-1992)
猫の肺腫瘍の予後
猫の肺腫瘍は予後が悪いことがほとんどです。
予後因子は組織学的グレードであるという報告があり、肺腺癌における生存期間中央値は高分化なものなら698日、未分化なものなら75日と大きく差があります。
その他にリンパ節転移や胸水の有無も重要な予後因子となると考えられています。
- 症状の有無、病期ステージ、腫瘍の種類、組織学的グレードが生存期間と密接に関わる
- 猫の肺腫瘍は予後が悪いことが多い
まとめ
今回は肺腫瘍について解説しました。
肺腫瘍は犬や猫では稀な病気に位置付けられており、なかなかコレといった症状を示さないことから、発見が遅れがちです。
リンパ節転移や腫瘍のタイプによっては急速に命を落としてしまう腫瘍ではあるので、注意が必要です。
手術適応ならば切除がおすすめされますが、すでに肺内転移が成立していたり、多発している場合は手術ができない場合もあります。
その場合、化学療法や放射線治療が検討されますが、
その有効性は証明されておらず、どうすべきかの明確なコンセンサスはありません。
本記事の参考図書
David M. Vail ; Douglas H. Thamm ; Julius M. Liptak : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 6th ed., ELSEVIER, 2019
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