はじめに
今回は末梢神経鞘腫について解説します。
末梢神経鞘腫の”神経鞘”とは神経を包んでいる膜のことで、そこから発生した腫瘍を神経鞘腫と言います。
決して頻繁に見られる腫瘍ではないですが、
いざ治療をするとなると、根治を目指すには断脚が必要になることもあり、
とても怖い腫瘍です。
今回はそんな末梢神経鞘腫がどのようなものなのかについてお話ししていきます。
末梢神経鞘腫とは
末梢神経鞘腫(PNSTs)は珍しい腫瘍です。
末梢神経鞘腫はシュワン細胞または神経内の線維芽細胞が由来の腫瘍です。
シュワン細胞由来の腫瘍は神経鞘腫、線維芽細胞由来の腫瘍であれば、神経線維腫や神経線維肉腫などの呼び名がありますが、獣医学領域では明確な区分がされていません。
末梢神経鞘腫に関しては顕微鏡的所見から良性と悪性を区別し、良性のものを良性末梢神経鞘腫(BPNSTs)、悪性のものを悪政末梢神経鞘腫(MPNSTs)と呼びます。
犬の末梢神経鞘腫は組織学的には臨床的にもアグレッシブな挙動を示すことがほとんどで、このように良性、悪性を分類することは非常に有用であると考えられます。
また猫では悪性末梢神経鞘腫の割合が犬よりも高いと言われています。
疫学的な特徴
発生部位
末梢神経鞘腫は脳神経、脊髄神経根、体性神経、自律神経などで発生が認められます。
脳神経なら三叉神経、
脊髄神経根ならC6-T12間でも最も多く、それに続いて腰膨大部が多いと言われています。
転移が起こるのは稀です。
好発年齢、品種、性別
発生は中年齢~高齢の動物で、中から大型犬が多いです。
好発品種や性差などは報告されていません。
その他の腫瘍
末梢神経に発生する末梢神経鞘腫以外の腫瘍として、以下のようなものが挙げられます。
- リンパ腫
- 肉腫
- 組織球性肉腫
- (過誤腫)
末梢神経に浸潤性を示すリンパ腫
末梢神経に浸潤性を示すリンパ腫は別名、神経リンパ腫症(neurolymphomatosis)とも呼ばれ、猫の場合、その多くはB細胞性と言われています。
反対に犬ではT細胞性のことが多いです。
病因、経過、臨床症状
末梢神経鞘腫の症状は腫瘍の位置によって見られる症状が異なります。
典型的な症状
犬の末梢神経鞘腫の大部分は腕神経叢または腰神経叢の神経根に認められるため、慢性的な跛行が典型的な症状です。
末梢神経鞘腫は脊髄疾患を疑う症状や神経機能の低下による片側麻痺が出てくるまで、何ヶ月間もの間、発見されないことはよくあります。
脊髄疾患の症状は非対称性であることが多く、腫瘤が脊柱管に浸潤したり、脊髄が圧迫を受けた時に認められます。
触診時に痛みが出たり、感覚異常が出ることも一般的に認められる症状です。
三叉神経にできた場合
三叉神経の末梢神経鞘腫は重度の咀嚼筋萎縮や顔面の感覚消失、ホルネル症候群の原因となります。
末梢神経に発生するリンパ腫でも末梢神経鞘腫と類似した症状が認められます。
診断方法
腕神経叢に発生した末梢神経鞘腫の約33%は身体検査で腫瘤を触ることができます。
超音波検査で腋窩周囲を描出することでより見つけやすくはなりますが、MRI検査には敵いません。
末梢神経鞘腫の診断は難しく、試験的に行われる手術や生検によって診断を付けます。
画像検査で役立つのは腕神経叢や脳神経などの神経組織をきれいに撮像することができるMRI検査です。
ただし、注意点として特発性神経炎、末梢神経に発生するリンパ腫は末梢神経鞘腫と同様の見え方をするので、やはり試験的な手術や生検で病理診断を得ることは大切です。
治療法と予後
一般的な末梢神経鞘腫
末梢神経鞘腫の治療法は外科療法が好ましいと言われています。
末梢神経鞘腫の予後はどの部位に発生したのかと腫瘍が取り切れたかどうかが重要な因子となってきます。
完全に切除するために断脚(足の切断)、椎弓切除などのように腫瘍が存在する区画を一括して切除する方法が必要となる場合があります。
こういった方法を『根治的切除』と言います。
このようなしっかりとした根治的切除を実施したとしても、脊柱管にまで浸潤している症例は予後が悪いと言われています。
犬の末梢神経鞘腫では腕神経叢や脊柱近傍に発生するものは悪い挙動を示すことが多く、生存期間中央値は約6ヶ月ほどとされています。
しかし、根治的切除を実施した場合は長期生存(4年ほど)が見込めると言われています。
三叉神経に発生した末梢神経鞘腫
三叉神経に発生した末梢神経鞘腫では臨床症状が見られないまま進行することがあり、無治療の犬でも症状が出ることないまま18ヶ月ほど経過することもあります。
三叉神経に発生した末梢神経鞘腫では外科療法、放射線治療が選択され、ともに良好な成績が認められています。
末梢神経に発生したリンパ腫
リンパ腫は特に推奨されている治療法はないですが、放射線治療や抗がん剤治療が選択されます。
さいごに
今回は『末梢神経鞘腫』について解説しました。
末梢神経鞘腫は神経細胞から発生する腫瘍で、どの部位に発生したかによって症状が変わってきます。
診断方法はMRIを用いて画像診断が一般的です。
治療は外科療法がメインとなりますが、放射線治療も選択肢として検討されます。
本記事の参考図書
David M. Vail ; Douglas H. Thamm ; Julius M. Liptak : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 6th ed., ELSEVIER, 2019
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