はじめに
散歩中やドッグランに連れて行った時、後ろ足をぴょこぴょこを挙げてるの見たことはないですか?
スキップしてるような様子で、どこか痛いのかなと、触ってみてもすぐに治まり、何事もなかったのようにまた普通に歩く
もしかするとそれは『膝のお皿が外れているサイン』かもしれません。
今回は『膝のお皿が外れる病気』についてご説明します。
膝が外れる病気とは?
どんな病気?
この病気は『膝蓋骨脱臼』といっていきなり難しい名前が出てきましたが、意味は簡単です。膝のお皿が、脱臼する病気です。
小型犬で多い病気(Priester WA. AVMA 1972)で、症状は2~3ヶ月齢ぐらいの子犬から起こり始めます。
犬の膝ってどこ?
そもそも犬の膝ってどこかわかりますか?
ここにあります。
犬は我々人間に例えると、常につま先立ちで立っているような状態です。
膝を横断で切った面がこちらです。
通常、膝蓋骨は太ももの滑車溝と呼ばれる溝にハマっているのですが、
これが何かの拍子に外れてしまうことを『膝蓋骨脱臼』と呼んでいます。
ではなぜ、このような膝が外れる状態になってしまうのでしょうか?
膝が外れる原因
遺伝的要因がありそう
外れてしまう原因は遺伝的な影響があるのではと言われていますが、はっきりとは分かっていません。
現在研究が進められていて、いくつかの犬種では原因となる遺伝子が特定されつつあります。(Srinarang P et al. Vet World. 2018)(Soontornvipart K et al. Vet J. 2013)
現時点では生まれたての子の多くは膝が外れていることはない一方で、成長するに連れて骨が曲がってくるため、膝が外れてくるのでは?という説が有力です。
つまり、原因は『骨の発達異常』であると言われています。
骨格は遺伝することが多いので、遺伝的な要因が絡んでいるのは間違いないでしょう。
骨が湾曲することに加え、滑車溝の堤防が浅かったり、太ももの筋肉に引っ張られることも原因の一つと言われています。
具体的にはどんな症状が出る?
膝蓋骨の役割
それには膝が外れるとどうなるかを考えれば分かります。
膝のお皿は膝の関節を滑らかに動かす役割を持っています。
膝のお皿は溝にハマっていて、そこを滑車のように動きます。
そのおかげで、太ももの筋肉を収縮させると、それに連動して、膝の関節が伸びるようになります。
しかし膝が外れてしまうと、それは滑車が外れている状態なわけですから、
力がかかる向きが変化して、脳では膝を伸ばそうという指令を出しているのに、
力学的には膝が逆に曲がる方向に作用します。
これのせいで脳では伸ばそうとしてるのに膝は曲がってしまうことで、犬はとても困惑し、歩き方がぎこちなくなってしまいます。
重症度を知る
続いては重症度を知るということですが、実は膝蓋骨脱臼はその脱臼のしやすさで4段階に分けられています。
グレード1から4までありますが、数字が大きくなるほど重症になります。
最もよく用いてられるのはシングルトン先生という先生が開発したグレード分類です。
これは膝のはずれ具合によって、1から4段階に分類しています。
簡単に表にまとめるとこんな感じです。
グレード1と2はハマっているけど、たまに外れる。
3以上になってくると、常に外れていて症状も強くなります。
グレード1から4の順番にどんな症状になるかを簡単にご説明します。
グレード1と2の症状
グレード1の子は日常生活で何か異常が出るということはほとんどありません。
身体検査の時に人間の力でグッと押さないと外れない程度なので、ほとんど問題はありません。
たまに、軟骨を痛めてしまいびっこをひくことはありますが、非常に稀です。
グレード1の子は日常生活で何か異常が出るということはほとんどありません。たまに、軟骨を痛めてしまいびっこをひくことはありますが、非常に稀です。
グレード2の子は普段はお皿がはまっているものの外れてしまうと戻らないので、
外れた時に『スキップ』するような歩き方をしたり、足を後にピンと伸ばして、自分でハメ直している子もいます。
物心ついた時からハマったり外れたりしているので、多くの子は自分でうまくハメ直しています。
グレード3と4の症状
グレード3と4に関しては常に外れている状況なので、びっこを引くことが多くなります。
後から見ると足がO字に湾曲して見えたりもします。
特にグレード4では症状が重度になり、膝を伸ばすことができません。
そのため、常にカニさん歩きみたいになってしまいます。
これらを調べるには触診とレントゲン検査が必要です。
スキップしたり、足を伸ばしづらそうな様子が見られた場合は動物病院へ連れていきましょう。
放っておくとどうなるか
小さい頃からずっと脚は使いづらそうにしているけど、元気だし別にいっかとこういった場合はついつい放っておきがちになります。
放っておいた場合、どうなってしまうのでしょうか?
膝蓋骨脱臼を放っておいた場合、関節炎や前十字靭帯断裂のリスクが上がります。
膝蓋骨脱臼と関節炎
膝蓋骨脱臼が起こっている犬は正常な関節の犬と比べ、関節炎が起こっている確率が高いです。(de Bruin T et al. Am J Vet Res 2007)
関節炎がひどくなると、痛みが出てくるので、歩きたがらなくなったり、片方の足を庇って歩くので、反対側の足も傷めてしまう可能性があります。
前十字靭帯が切れやすくなる
また、このような膝蓋骨脱臼が起こっている犬では太ももの骨とスネの骨を繋いでいる前十字靭帯と呼ばれる靭帯が切れやすくなることもわかっています。
特にグレードが高い犬ほど、断裂する頻度が高くなります。(Campbell CA et al. JAVMA 2010)
前十字靭帯は歩く時に体重が乗った際、脛の骨が前へ滑り出ないように繋ぎ止める役割を持っていますが、ちぎれてしまうと歩く時にうまく踏ん張ることができなくなります。
これにより、歩き方が明らかにぎこちなくなります。
また、前十字靭帯がちぎれると、膝の中にある半月板というクッションの役割を担う軟骨がすり潰され、強い関節炎と痛みが出始めます。(Hayes GM et al. JSAP 2010)
ではこうならないためにお家でできることと治療法について説明します。
飼い主がお家で出来ること
適正体重をキープする
体重が増えると膝に負担がかかります。
若い頃は大丈夫でも歳を取るにつれて、膝へのダメージが蓄積され、痛みが出ることがあります。
また、肥満のまま歳を取ると、心臓病や糖尿病のリスクが高まるのでそういう意味でも、適正体重をキープしておいた方が良いでしょう。
膝に負担がかかる動きを避ける
膝に負担がかかる動きとは、同じ場所をグルグルと回転するような動きや、後ろ足2本で立ち上がってピョンピョン跳ねたりするような動きです。
グルグル回る動きは膝関節を捻るような動きを加えるので負担になります。チワワはこういった動きをする子が多いです。
また、ピョンピョンと跳ねるような動きも二本に体重がかかるので負担になります。
これはトイプードルで多いです。
トイプードルは元々サーカスの玉乗りなどで起用されるぐらい器用な動きができる犬種です。
二足歩行は可愛いですが、そういった芸を覚えさせて、おやつをあげていると知らぬ間に膝にダメージが蓄積してしまう可能性があります。気をつけましょう。
サプリメントを使う
関節炎を軽減させるサプリメントとしておすすめなのが『アンチノール』です。
これは炎症を抑える効果のある脂肪酸を抽出したサプリメントで、関節炎の症状を軽減させる作用があります。
ネット販売は模倣品などが出回っていることあるみたいなので、試してみたい場合は動物病院経由で買われた方が安心かなと思います。
治療法
手術or手術しない?
治療法については手術とお薬で治す内科治療があります。
どっちが正解はないが、グレード1~2の症例や変形性関節症が軽度な場合は内科療法が選択されます。(Di Dona F et al. Vet Med 2018)
症状が強く出たタイミングで痛み止めを使って安静にしてあげます。
つまり、お薬や様子見をしていていいのは軽度なものというわけです。
しかし、やはり常に歩き方がおかしいとか、痛そうにするという場合は手術を検討していく必要があります。
手術が適応となる状況
では、どのような状況なら手術が適応となるのでしょうか?
一応、このような状態であれば手術した方がいいですよーというパターンがあります。
成長期に脱臼が確認できた場合や、手術で脚の変形を治せる見込みがある場合や、
症状が重度の場合、予防的手術としてご家族が同意した場合などが挙げられます。
逆に手術しては行けない場合もあります。
それが以下のようなものです。
- 免疫異常を伴っている症例
- びっこを引く原因が膝蓋骨脱臼以外も絡んでいる可能性がある
手術をしたからと言っても改善する見込みが少ないからです。
具体的な術式
では手術するとなると具体的にはどのようなことをするのでしょうか?
具体的な手術は以下のようなものがあります。
- 関節包の再建
- 内側広筋の切離術
- 滑車溝形成術
- 脛骨粗面転植術
①から③はセットで行われることが多いです。
難しい漢字がいっぱい並んでいますが、要は滑車の溝を深くして、膝のお皿が外れにくくなるようにする手術です。
グレード4の重度の変形がある症例では④の手術も必要になります。
では最後にまとめです。
さいごに
今回は『犬の膝蓋骨脱臼』についての解説をしました。
- ひざのお皿が外れる病気は遺伝によるもの
- 重症度は4段階あり、グレードを知るには触診やレントゲン検査が必要
- 病気を放っておくと、関節炎や靭帯が切れる
- 体重管理とひざに負担がかかる動きは避ける
サプリメントを使ってみるのも一つの手
軽度なものはお薬で、重度なものは手術を検討
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