はじめに
毎年、やってる定期検診のエコー検査で「副腎が大きい」という結果が出ました。
ネットで調べると”副腎が大きいのは『クッシング症候群』という病気で、薬を飲む必要がある”って書いていたんですが、うちの子はクッシング症候群なんでしょうか?
クッシング症候群って、結構分かりやすい症状出るんやけど、その子は何か気になる症状はあるの?
いや特に、気になることはないです。
強いて言うなら、もう高齢なので、よく寝るようになったぐらいです。
それなら、副腎偶発腫ってやつちゃうかな?
副腎偶発腫…??なんですかそれ
じゃあ、
副腎偶発腫について説明していくな
副腎偶発腫とは
副腎偶発腫について人の話になりますが、日本内分泌学会が以下のように説明しています。
副腎疾患の診断を目的としない画像検査で偶然に指摘された副腎腫瘍の総称です。
日本内分泌学会
獣医療においても腹部超音波検査を行なっている時にたまたま描出した副腎が腫大しているのをしばしば見かけます。
これを『クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)』と診断するのは良くありません。
腹部画像検査を行なうと、一定の割合で副腎偶発腫が発見されます。
超音波検査での報告
3,748匹の犬を対象に腹部超音波検査を行なった研究では151匹(4%)の犬で副腎偶発腫が発見されたという報告があります。
この論文では超音波検査にて左右どちらかの副腎の短径が10mm以上の結節または腫瘤を確認した場合に副腎偶発腫としてカウントしています。
副腎偶発腫は高齢動物で有意に発見されやすいという結果も得られています。
An IAGL was detected in 151 of 3,748 (4%) dogs. Dogs with an IAGL were significantly older (median age, 11.25 years) and heavier (median body weight, 21 kg [46.2 lb]) than the control population (median age, 9.5 years; median body weight, 14 kg [30.8 lb]).
Clinical findings in dogs with incidental adrenal gland lesions determined by ultrasonography: 151 cases (2007-2010)
CT検査での報告
副腎疾患とは関係のない理由でCT検査を行なった270匹の犬のうち25匹(9.3%)が副腎腫瘤を持っていたという報告があります。
こちらにおいても先ほどの超音波検査の文献同様、副腎偶発腫は高齢動物で多いという結果が出ています。
25匹のうち3匹が病理組織学的検査を実施され、その結果は2匹が副腎皮質腺腫で、1匹が褐色細胞腫だったそうです。
Incidental adrenal gland masses were detected in 25 of the 270 (9.3%) dogs. Dogs with incidental adrenal gland masses were significantly older (median, 12.0 years; range, 8.0 to 15.0 years) than dogs without (8.2 years; range, 0.1 to 13.1 years).
Prevalence of adrenal gland masses as incidental findings during abdominal computed tomography in dogs: 270 cases (2013-2014)
- 副腎偶発腫とは臨床症状がなくたまたま発見された副腎腫瘍の総称
- 副腎疾患以外で検査した症例でも数%の確率で副腎偶発腫が発見される
副腎偶発腫は悪性なのか
副腎偶発腫が発見されたは良いですが、それ自体が悪いものなのか、良いものなのか気になるところです。今まで無症状で過ごしてきて、たまたま見つけたシコリに対して悪性なのか良性なのかを判断するにはいくつかの判断基準があります。
- 大きさが短径20mmを超える(←重要)
- 高血圧←腫瘍の成長を促進させる?
- 体重←診断時の体重と生存期間は反比例する?
- 転移病変がある
特に大きさが重要で、副腎偶発腫を見つけた場合は定期的にサイズを測定し、20mmを超えて増大傾向があるなら、副腎摘出を検討しなければいけません。
- 悪性か良性かは大きさがポイントになる
- 血圧も関与しているかも←諸説あり
副腎偶発腫を見つけたらどうする?
他に異常がないかをチェック
一般身体検査
副腎偶発腫を見つけた場合はしっかりと全身の精査を行いましょう。
血圧測定や眼底検査を含め、副腎の腫脹以外に他の異常所見がないかを調べます。
内分泌検査
機能性腫瘍を除外する目的で、内分泌検査を行うべきです。
内分泌検査は『ACTH刺激試験』や『高用量デキサメタゾン抑制試験(HDDST)』があります。
ACTH刺激試験
ACTH刺激試験は機能性副腎腫瘍なのか単なる副腎の奇形なのかを調べるために行われます。
ただし、度重なるACTHの投与は累積用量依存性に副腎皮質(特に束状帯)の壊死を起こすと言う報告もあるので、最近は頻回のACTH刺激試験は控えましょうという流れになっています。
Rats treated with 60 μg ACTH/d showed more hemorrhage and vacuolization and increased numbers of apoptotic cells in the adrenal glands than rats treated with 20 or 10 μg ACTH/d, trilostane, or control rats.
Adrenocorticotropic hormone, but not trilostane, causes severe adrenal hemorrhage, vacuolization, and apoptosis in rats
高用量デキサメタゾン抑制試験(HDDST)
高用量のデキサメタゾンを投与し、下垂体から分泌されるACTHを抑制することで、コルチゾール値に変化が出るかを調べる検査です。
こちらは副腎腫大に対して、下垂体性クッシング症候群なのか機能性副腎腫瘍(AT)なのか副腎偶発腫なのかを鑑別するのに役立ちます。
『片側性の副腎腫大=副腎腫瘍』と決めつけずに必ず、HDDSTを行って、鑑別するべきでしょう。
画像検査
画像検査の方法として超音波検査、CT検査、MRI検査があります。
超音波検査
PDHとATの鑑別を行うことができます。
左右両方の副腎が腫大している場合は下垂体性クッシング症候群で、片方だけが極端に大きくなっているのを副腎腫瘍として鑑別できます。
さらに小型犬で泉門が開いていたり、頭蓋骨の骨が薄い子では下垂体を超音波で確認できることがあります。
CT検査とMRI検査
CT検査では副腎腫瘍が他の腫瘍の副腎転移によるものでないかを全身調べることができます。
また、MRI検査では下垂体の大きさをより正確に測定することができます。
ここでは詳しくは割愛しますが、下垂体性クッシング症候群の中には『下垂体巨大腺腫』と呼ばれるものがあり、そういった疾患の可能性を除外する目的で、撮影されることもあります。
細胞診は推奨されない
通常、腫瘍か腫瘍ではないか、あるいは良性腫瘍か悪性腫瘍かを鑑別するには細胞診といって、針を標的病変に刺入し採取した細胞を観察する方法がとられます。
しかし、副腎の腫瘍の場合、細胞診による合併症のリスクと診断精度が低いことから、推奨されていません。
細胞診によるリスク
副腎腫瘍のうち、褐色細胞腫と呼ばれる髄質由来の腫瘍であった場合、細胞診をしようと副腎に針を刺したタイミングでカテコラミンが分泌され、強烈な高血圧を引き起こす可能性があります。
また副腎のすぐそばには、後大動脈などの大きな血管が走っているため、穿刺により傷つけてしまうリスクもあります。
ある文献では皮質由来腫瘍と髄質由来腫瘍の区別を行なうのに有用との報告がありますが、基本的には副腎の細胞診はしない方が無難です。
副腎摘出か様子見か
副腎摘出すべきもの
副腎摘出を検討するべき副腎腫瘤とは以下のようなものが挙げられます。
- 機能性である
- 局所浸潤性が高い
- 短径が25mmを超える
様子見しても良いもの
反対に、機能性(ホルモン産生能)がない2cm未満の副腎腫瘤に関しては定期的なモニタリングで様子を見るべきと言われています。
推奨されているのは3ヶ月おきに超音波検査を行う方法です。
- 偶発腫を見つけたら、身体検査、内分泌検査、画像検査を行う
- 細胞診は推奨されていない
- 手術するか様子みるかは大きさと機能性がポイント
まとめ
今回は副腎偶発腫について説明しました。副腎偶発腫は定期検診などで、たまたま発見されることが多いです。ホルモン産生能がなくクッシング症候群の症状を示していない場合や、増大傾向にない場合は定期的な観察で様子を見られるのが良いでしょう。
副腎腫瘍=クッシング症候群と決め付けるのはよくないで!
しっかり、全体を評価し、場合によっては経過を見ていくことも重要やで!
本記事の参考書籍
David M. Vail ; Douglas H. Thamm ; Julius M. Liptak : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 6th ed., ELSEVIER, 2019, 575p